私を抱きかかえるその腕は、見た目よりもずっと力強かった。
「首に手を回して。うん、そう。落ちないでね」

ばさりと羽音を立てて背の翼が大きく広がる。
フッケバインが窓からジャンプすると、一瞬の落下の後、浮遊感が体を包んだ。

『すごい…本当に飛んでる!』
「当たり前じゃない。私はいつも飛んで来てたでしょ」
『私を抱えて飛べるとは思わなかった』
「ハナは重くないよ」

地平線にわずかに赤みを残す宵闇の空。
眼下には残された平地と拓かれた山に沿って広がる街明かりが見える。
月はすでに登り、瞬き始めた星空の中を、白と黒の翼が切り裂くように飛翔する。
『きれい……』

「しっかり掴まっててね。それじゃ…インメルマンターン、行くよ!」
『…えっ?』

月夜が巡る。
星々の煌めく空と、仄暗い闇を湛えた大地が目まぐるしく反転し、通り過ぎる。
狂った天使が、幻想の世界を、縦横無尽に駆け巡る……

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名前:“半分屑鉄の”ベノム
智識再構成率39%
話した言葉:9.20-10.00-3.86-3

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