とうとう棚の前まで来たA。
しゃがみこんで周りを確認しているとなぜか棚の中から重苦しい空気が出ているような気がした。

これさえ確認して何もなければ安心して寝れる。そう思ったAはとうとう棚の取っ手に手をかける。
すると奇妙な感触がする。それはぬるっとしていて指にまとわりついていた。

慌てて手を離し指についたものを確認する。それは少し黒ずんでいる血のようなものだった。
「ヒッ!」と思わず尻餅をつくA。逃げ出そうにも腰が抜けてなかなか動けない。
するとゆっくりと棚が開き始めたではないか。当然Aはパニック状態に陥る。
そして半開き状態になりチラッと中が見えるくらいになった。

その隙間を凝視すると鍋がある筈の場所には何もなく、暗い空間と蠢く何かがあった。
それはまるで人の頭のような、しかしこの世のものではないようなものだった。
それがゆっくりとこっちを見ようとする。思わず悲鳴をあげるA。

そして声を出したまま思わず起き上がる。周囲を確認してみると日が沈みかけていた。時計を確認すると6時過ぎを指している。
部屋を見ると自分は寝室にいた。
なんだ、夢か…Aはホッとため息をつき自分の頬に手をあてる。
すると頬にぬるっとした感触がした。

「え?」

すぐさま手を離し確認する…思わず体が震えだす。
なぜか手には先ほどの血のようなもの…嘘?夢だった筈なのに、なんでこんなものが手に?

急いで体中をチェックする。怪我などはなく、血が出たような形跡もなかった。
結局原因は分からず、その後も何事もなかったそうな。…ただ一つ、時々台所に違和感を覚える以外は。

以上が私の一つ目の話。
ふふっ、夢ってのは本当に不思議だね。
怪談話1の続き