「私は、結婚しないよ」


はっきりとした口調で彼女がそう言い切った。特に驚きはしない。いずれそう結論づけるだろうとは思っていたから

そう、驚きはしなかった。だが、悲しくはあった。

彼女は、一生涯孤独に生きていくのだ、そう強い人ではないのに。そんな生き方を彼女自身が望んでいるのが哀れだった。何故こうも彼女の視野は狭いのだろうか。どうして彼女はこうも、不器用なのか。

しかしそれによって【彼女】が形成されていて、それがなければ【彼女】が【彼女】ではなくなってしまう。ああ、なんて哀れな

歯痒くて、己の無力を呪った。


「………」


悲嘆と自責の念に苛まれている私とは対照的に、彼女は緩やかに微笑んだ。私の思考が止まる。白い手を伸ばし私を撫でる彼女、


…いつも思うが、この行為は心地いい


「………」


彼女は相変わらず口元は笑んでいた、が、瞳は揺れていた。ああ、泣くんだな、と何度か見かけた表情で察した。

だが察したところで彼女を慰めることはおろか涙を拭うことも出来ない。何たる非力。涙を流す彼女をただ呆然と見つめる。


どうしてこうなったんだろう

自問しても意味など無い。


彼女が囁く、愛してる、と

私も愛してるよ、と返事が出来れば、ああ、どんなに、






しかし私は逆にそれに助けられていた。本当は知っているのだ、彼女の“本当の”想い人を。もし、もし私が彼女の口からその名を聞けば嫉妬で怒り狂ったろう。




そうだ、私は彼女を愛してる。

……だが報われない想いだ。
何故なら私は彼女に話し掛けられない、触れられない。あまりの愛しさに苦しくなりながらも伝えられずに喘ぎ、また苦しくなった。悪循環。なにも生み出さない。なにも意味はない。報われもしない。


……彼女もまた、そうだった。


彼女の愛の言葉は、彼女の愛は、私に向けられたものではなかった。あんなに求めた彼女のそれは、私ではなく、私越しの“彼”に向かって発していた。
どんなに想っても、どんなに愛しても、それらが返ってくることは決して無かった。……最悪な返事を彼女に押し付けたことはあったが。

彼女は嘆き、怒り、苦しみ、泣いた。しかしめげずに愛した。いじらしく、一途だった。だがあまりに哀れ、 


何故、と問うが誰も答えてはくれない。そんな残酷な仕打ちに二人きりで嘆く。……皮肉なものだ、私は彼女を愛しているのに、

彼女が“彼”に恋をしている限り、これから私と彼女はずっと一緒にいるのだろう。だが彼女は“彼”と一緒にいると思ってるかもしれないがその実質は私だ……本当に悲しいことに



ああでも、……それでも、一緒にいれるなら






君と一緒にいられるのなら、それで、構わない

ふたりぼっち