名前:観月しおり&観月さおり

バカ犬の命がお嬢様に弄ばれた回数359回

幸せです、お嬢様…

リグルが生唾を飲み、まいな様がテーブルに両肘を乗せたまま、ぶらりぶらりと足を動かす。
刃が腕の皮を突き破り、赤い鮮血がじわりと溢れてくる。
痛い。
とてつもなく、痛い。
「がんば~れ、がんば~れ♪
いーぬーさん♪
がんば~れ、がんば~れ♪
いーぬーさん♪」
まいな様が軽やかな口調で僕を応援してくれている。
リグルは、相変わらずじっとしたままだ。
刃が肉を抉り、一定の範囲まで切り取り終わる。
リグルが気を利かせて、サッとフライパンを僕の方へと寄せてくれる。
そのフライパンの上に、べちゃりと音を立てて、僕の肉は無事に目的地へと落下することができた。
「ま…まいな様…」
気がつけば、僕は痛みで涙を流していた。
必死に声を絞り出して、まいな様がこの悪夢を終わらしてくれることをただ祈るしかなかった。
「え?
なにしてるの、犬さん?
これだけじゃ、まいなもリグルちゃんも、お腹いっぱいになれないよ?」
祈りは、届かなかった。
まいな様は、更に僕の肉を要求なされたのだ。
僕は、はい、と答えるしかなかった。
刃を再び、左腕のまだ肉の残っている部位にあてる。
激痛で気を失いそうになりながらも、刃で肉を少しずつ削ぎ落としていく。
「ねぇ、まいな」
「なぁに、リグルちゃん?」
「ちょっと、つまみ食いしてもいいかな?」
「うん、いいよ♪」
リグルはフライパンの上に落ちている僕の肉を取ると、はむっと一かじりした。
「もぐもぐもぐ…
…ごくり。
わぁ…!
すっごくおいしいよ☆」
リグルの、すごく嬉しそうな表情を見ると、なぜだか僕まで嬉しくなった。
そっか…。
僕は、リグルのことが好きになってるのかな?
だから、まいな様は僕が今みたいな気持ちになることを見越してたから、だから「好きなリグルに食べてもらえるんだから、幸せものだね」って言ったのかな。


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