さて、これからどうするべきか。
まさか、ここへ投げ込まれることとなったときに、こんな力を持つだなんて思いもしておらず、ましてや今こうして堂々と獄破りをするなんて想像もしていなかった。
だから、収容所の中に何があって、どこに行けば出られるのか。
そもそも、此処は何処かだなんて、間抜けなことを聞く余裕なんか持ちあわせていなかったのだ。
鍵なら、もう既に持ってるじゃないか。
俺の拳だ。
「ヒャッハー!
いいぞ、青年!
このままクソビッチどもを皆殺しにしてしまえ!」
閉じ込められている男たちが、騒ぎ始めている。
とりあえず、くるりと来た道を引き返して、丁寧にドアを開けていく。
中でも元気の良かった、奇声を上げていた彼はとてつもない筋肉の持ち主で、背の高い男だった。
収容所というのは、とても暇で暇で仕方のないところで、やることと言えば妄想か、彼のように筋トレに励むしかないのだ。
「名前は?」
俺は手を差し出し、握手を求める。
「アントニーンだ。
お前は?」
彼は筋肉要塞に相応しい手を差し出し、応えてくれた。
「忘れた」
「本当か?」
「本当だ。
クソのような拷問を受けてな」
そう、俺は自分の名前も、母親の顔と名前すらも忘れてしまったのだ。
あの忌々しい、思い出すことすらもしたくない拷問を受けて。
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