「あたし……ママ………」
かおり様は、体を震わせていました。
ついさっき、自分が必要ないと床に叩きつけた本は、もしかして…
そう考えると、自分のしたことが、如何に恐ろしいものかと感じたのです。
例え、魔術というものが存在せず、結局のところ、読むことが徒労に終わる本であったとしても、幼い頃に
母が必要として考え、自分へ与えようとしていた本が、そこにある。
「行かなきゃ…早く、行かなきゃ」
かおり様は急いでブーツを履き、先程の村長のいた部屋へと急ぎます。
休息に使っていた部屋のドアを開けると、白い犬耳を生やした、あの青年が直立して待っていました。
「さっき村長のいた部屋は、まだ開いているかしら?」
青年は、やや元気のなさそうに、答えます。
「はい、かおり様」
「案内してくれないかしら?
あたし、少し謝ることがあるのよ。
…貴方にも、ね」
青年は驚いたように目を丸くすると、再び、とても嬉しそうに「はい!」と答えました。
彼は、てっきり、かおり様が日本へと帰る決意をしたか、もう自分達を必要と考え無くなったのでは
ないかと思い込んでいたのです。
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