かおり様は早歩きで村長の部屋の前へと急ぎ、そしてドアを開けます。
部屋に電気はついていましたが、村長は泣きつかれたのか、机に顔を伏せたまま眠っていました。
床には、まだ払い落とした本が散らばっています。
かおり様は、村長の下へ駆け寄ると、静かに顔を寄せ謝罪の言葉を告げます。
「ごめんなさいね、あたし………」と。
起こさないように、村長の頬にキスをすると、無残にも床に散らばっている本を一つ一つ、大切に拾い上げ
机の上に置いていきます。
そして再び、村長と向きあう位置に腰を下ろし、ゆっくりと本を読み始めたのでした。
青年は、かおり様の足元で膝まずくと、幸せそうにブーツを履いたおみ足へ頬ずりをします。
かおり様は、その彼の姿に気がつくと、微笑みを浮かべながら、青年の髪を撫でます。
彼は嬉しさで涙を流しながら、頬ずりを続けますが、やがて時間が流れるにつれ、安心して落ち着いたのか、彼もまた、スヤスヤと
かおり様の足元で眠りについたのでした。
かおり様は、本の内容を理解するのに夢中でした。
一ページずつ、ゆっくりと読み飛ばしのないように、ページをめくっていきます。
その中には、かつて幼い頃、母親が口癖のように言っていたことの、その意味が書き綴られていました。
娘を不老不死にし、身体能力を高める術。
一往復のみ、次元を超え、移動する術。
人を縮小させる術。
なるほど、ママが言っていた本とはこのことで、その本の完成形が、これだったのかと、かおり様は思いました。
そして、村長が力説し、これさえあれば観月家の再興も夢でなく、現実的なものとなると言っていたことも同じく理解したのです。
この本は、観月家、朝倉家、西村家の血を引く者しか使えないとも書かれており、村長自身が使わずに、ずっと、かおり様の
帰還を待っていたことも知ることとなったのです。
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