なおみ様は、またまた慌てました。
しかし、今は慌てている場合でもありませんので、すぐに冷静さを取り戻し、要件を
伝えるために店内を案内してもらうことにします。
「うん、かおりちゃんから伝言とお願いごとを頼まれてるんだ。
ちょっと、お店の中に入ってもいいかな?」
ヘレナちゃんは、少し固まった後、冷たい声で「分かりました、それではこちらにどうぞ」と、なおみ様を
店内へと案内をします。
丁寧に整理された、明るい売り場を過ぎると、小さな木製のドアの前に辿り着きました。
このドアの前に着くまでには、何度も何度も、店員さんから「いらっしゃいませ!」と挨拶をされました。
そして、売り場で感じていたパンの発するこの美味しそうな香りは、ドアの前まで漂っています。
なおみ様はこっそり、後で何とかゴネてパンをいくつか貰って帰ろうと思いました。
「こちらへどうぞ」と、ヘレナちゃんはドアを開けて、なおみ様を中へと案内しました。
そこは倉庫のようで、いくつかのパンを製造するために必要な道具や材料などが置かれています。
なおみ様が中に入ると、ヘレナちゃんは倉庫の隅にある、床に小さな窪みのあるところへと歩いて行きました。
「んっしょ…と」
ヘレナちゃんは、その窪みに指を入れると、可愛らしい声を上げて床を持ち上げようとします。
すると、床の一部がすっぽりと抜けて、暗闇の中から地下へと繋がる梯子が見えました。
「わぁ…」と、なおみ様は、その地下へと繋がる縦穴を覗き込みます。
ヘレナちゃんは、明かりを点けるための道具を装備すると、なおみ様に「ついてきて」と言い、するすると
梯子を下っていきます。
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