「ですよね、なおみ様」
「うん、ヘレナちゃん。
それにね、ヘレナちゃんは今から、とっても大切な任務を行動に移すんだから、書いてる暇なんて、殆どないと思うよ?
本音を言うと、全力でその任務に当たって欲しいんだから」
これは当然のことでした。
重大な任務を帯びている以上、本来なら新聞なんて書いている暇はないのですから。
しかし、ヘレナちゃんの場合は、そうではありませんでした。
「その任務を実施するに当たって、この新聞がとても重要な役割を果すのです。
だから、出来る限りは私の配下に収めておきたいのですが…」
なおみ様は、何となく察しました。
いえ、最初から察してはいたのですが、全ての任務をヘレナちゃん一人に任せてしまうと、もしヘレナちゃんに
不幸があった場合、組織として全体的に麻痺をしてしまう恐れがあったのです。
そういう事情もあり、女王通信の一件においては、少し間をおいたのです。
「言いたいことは分かるよ、ヘレナちゃん。
でも、ヘレナちゃんがやろうとしている目的は達成できるよ。
なおみが、かおりちゃんに言い含めておくから」
ヘレナちゃんは、新聞の記事内容を、チェコ社会民主党左派にとって、都合のいいように変えることが出来ることを
交渉材料として使えるようにしておきたかったのです。
「はい、なおみ様…
…その…」
ヘレナちゃんの様子が、少し変わりました。
なおみ様は、そのことに気づきます。
「その…わがままばかり言って、すみません…」
常に冷静なリーダー格のヘレナちゃんが、自ら、それも側近の同志の前で謝ることは、とても珍しいことでした。
なおみ様は、驚きます。
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