「その…オーストリア帝国のブゼムラティックで、観月みおり様の血を継ぐものが…」
ダリヤ様はカピトリーナ様の視線に怯えながらも話を続けます。
「観月みおりの…血を継ぐ者だと?
…続けろ」
カピトリーナ様は少しの間、ダリヤ様から目線をそらし、何かを考えます。
「はい。
その観月みおり様の血を継ぐ観月かおり様という者が、大日本帝国からブゼムラティックに帰還した模様です。
更に、みおり様の代からの同志、朝倉家と西村家の子孫も、同様にブゼムラティック入りを果たしているそうです」
カピトリーナ様にとって、この情報はまさに衝撃的なものでした。
観月みおり様の影響力というものは凄まじく、その思想と理想は人々から
熱く絶大な支持を受けているからです。
「バカを言うな!!
そのような重要な情報が、私の元に届いていないはずがない!!
そのような一大ニュースが、どうして話題に上がっていないのだ!?」
カピトリーナ様は荒れました。
ダリヤ様は怯えながらも、冷静に話を続けます。
「…帰還後、かおり様は直ちに行動を開始し『黒色の薔薇戦線』を形成。
同時に第一旅団と呼ばれる武力組織も形成し、日々革命に向けての軍事教練に励んでいるようです。
現在は、幅広く同志を掻き集め、一部の噂ではチェコ社会民主党内部からの引き抜き工作も行っているとも…」
カピトリーナ様は怒りに震えます。
「それは、いつ頃からだ?」
「今年の五月…遅くとも六月からは行動を開始していた模様です、同志カピトリーナ様」
ダリヤ様は答えます。
「どうして、こんなにも情報が遅れていたのだ?
…直ちに接触する必要がある。
このままだと、場合によっては…全てを持っていかれるぞ。
ダリヤ、ブゼムラティックへ案内しろ!」
カピトリーナ様は、ブゼムラティックへの訪問の準備をはじめます。
「カピトリーナ様、既にある予定はどうなされますか?」
ダリヤ様は困った表情で、カピトリーナ様に訪ねます。
「ちょっと出かけると言っておけ!
すぐに戻るともな」
カピトリーナ様はテキパキと準備のために動き、二人分の荷物はあっという間に纏まりました。
「行くぞ、ダリヤ!
メンシェヴィキに先を越されるな!」
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