1910年5月23日(月曜日)
その日は、とても良く晴れた日でした。
女王の血を引く者に相応しく、また、舗装されていない道でも動きやすいように、特注品として
作られた紫色のドレスの裾を少し気にしながら、観月かおり様は日本から長旅を終え、プラハより北東に向かったところにある
小さな村、ブゼムラティックに到着しました。
ここは、かおり様の遠い祖先、観月みおり様が日々の生活を送っていたとされている故郷です。
本来ならば遠い祖先に縁のある地に着き、何かしら満足気な表情を
なされるものですが、かおり様は、そうはなりませんでした。
「なによ…これ。
話が違うじゃない」
腰まである、長く少し薄い茶色の髪を撫でながら、かおり様は一人つぶやきます。
かおり様は、幼い頃から観月みおり様についてのお話を聞かされていました。
その内容は、とても誇り高いもので、みおり様は大国築き上げ、多くの人民に
幸を与え続けたというものでした。
そして、その大国の首都が、ここブゼムラティックと聞かされていたので、とても
素晴らしい都会というイメージを抱いていました。
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