1910年6月5日(日曜日)
ブゼムラティック、夕方。
日課訓練終了を告げる解散ラッパが、ここ黒色の薔薇戦線の本部として指定されている、かおり様の家にまで聞こえてきました。
ラッパ手はもちろん、クリスティナちゃんです。
「ただいまぁー」
スェーチェから帰還してきた、なおみ様の声が玄関から聞こえてきました。
かおり様は「おかえり、なおみちゃん」と言って、暖かく迎えます。
なおみ様は、もうクタクタといわんばかりに、ムレムレの運動靴を脱ぐと、かおり様のベットの上で横になります。
枕の横には、お店で貰ってきた美味しそうなパンの匂いがする、大きな紙袋が、無造作に置かれました。
「どうだったかしら?」と、かおり様は事務をこなしながら、会談の結果報告を待っています。
「バッチリだったよ」と、なおみ様はごろりと横になりながら、かおり様の方へ顔を向けました。
「ヘレナちゃんは、とってもすごい子だったよ。
あの歳で店長さんやってるし、同志もたくさんいたよー」
同志もたくさん、という言葉に、かおり様はピクリと反応を示しました。
「何人ほどいるのかしら?」
なおみ様は、リラックスしながら答えます。
「えっと…確か、85人いるみたいだよ」
「かなりの数ね」と、かおり様は満足そうな表情をします。
「だよね、かおりちゃん。
あと、マンリッヒャーM1895が計100丁と、その弾薬が3000発分。
それと、各種拳銃が38丁、爆薬などなど…って感じかな」
この報告に、かおり様はとても驚きました。
「一体、どうやって入手したのかしら?
小銃の形式を見間違えたとか、そんなオチはないわよね?」
「うん、そんなことないよ。
ヘレナちゃんは、とってもお金持ちだから、軍部の人を上手に買収したりして、兵器をこっそり流してもらってるみたいだよ。
一応、狩猟好きの友達とかに、たくさん売り飛ばしてるって名目でね」
それもそれで、名目としてどうかと思うけど…と、かおり様は思いました。
ともあれ、かなりの武器が隣の村にあるということが分かりました。
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