1910年7月5日(火曜日)
ブゼムラティック、夕方。
スェーチェから来る義勇部隊は、全てブゼムラティックに到着しました。
第一旅団の訓練も、ぐんぐん進み、訓練兵たちは、少しずつ兵隊暮らしに慣れてきています。
そんな中、ブゼムラティックに一報が入りました。
それは、かおり様たちを少し不安にさせるものでした。
第二次日露協約によって、米国のノックス提案は日露両国によって拒否されたのです。
このノックス提案というものは、1909年に米国で提案された満州の利権を狙うものでした。
かおり様は思います。
米国は、とても巨大な国です。
日本が既に獲得している、満州の利権を守ることは当然ですが、拒否された米国は当然ながらいい顔をしません。
きっと米国は、日本を次第に敵視し、恨んでいることでしょう。
今すぐ起きることではないでしょうが、近い将来、日本と米国が、もし戦争状態に突入したら…
かおり様は、そこで考えることをやめました。
いまは、日本のことを心配する余裕なんて、なかったのです。
具体的に、それも大きく組織を拡げていっているので、政府から目をつけられる可能性も増えてきています。
この政府にたいする対応について、かおり様は考えていかなければならない時期に来ているのです。
「政府側の犬に、買収をしかけようかしら…
それとも、別の道を…ううん、あれだけは絶対にイヤだわ!」
『あれ』というのは、訓練を完了させた兵士たちを、オーストリア帝国共通軍の予備役という位置づけをさせるよう、登録することです。
一見、とても無謀な方策に見えますが、全く可能性がないということでもありません。
当時のオーストリア帝国は、豚戦争によって民族意識が高ぶっていることもあり、また、バルカン半島そのものが、非常に
不安定な状況下にありました。
そこで、あたし達は反乱軍ではなく筋金入りの帝国支持者だということをアピールすれば、出来ないことも無かったでしょう。
しかし、かおり様は選択肢として、それを見ていませんでした。
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