出らんない気がするって、大袈裟だな……
たかだか雨だろ?そう気落ちすんなよ。
走って、なあ……。
…………お前、そのヒールで走れるのか?この雨の中。
転んだら更にシャレになんねえぞ。
待ってろ、仕方ねえからマウリツォに連絡するよ。休暇中だろうけど、車の手配くらいはしてくれるだろ。
(マウリツォは、俺の優秀な秘書だ。休暇中だろうがなんだろうが、俺からの電話ならすぐに出るだろうし、迎えにこいと言えばすっ飛んで来てくれるだろう。
本人が来れずとも、代理の運転手位は寄越すはずだ。)
(発信ボタンを押す、指がふと止まる。)
(……○○の言葉が頭を過ぎった。
もう、ここから出られない気がする。と。)
(──此処は、今、俺たち二人の雨の牢獄だ。
俺と、○○、二人だけの世界の。
そんなの、そんな事、何度……願った事か。
ああ、そうだ。
今、今この瞬間だけは、俺の願いが叶っている。だから、俺はこの世界を壊すこのボタンを押すことに躊躇しているんだ。
このまま、本当にずっとこのままならいいのに。雨なんか止まなくていいとさえ思ってる。)
(……俺は、○○とふたり、牢獄の中に居たいんだ。
二人だけの世界で、誰にも邪魔をされずに。)
──っくしゅん!