(少しだけ部屋のカーテンを開けて、ふかふかのベッドに潜り夜空を見上げる。月明かりに雪が反射して外が明るく、しんしんと降ってくる雪の粒がよく見えた。)
(こうしてアーサーの家に住むことになり、何週間かたった、12月30日の夜のこと。
明日で一年が終わる。……私はひとつ不安なことがあった。
「今年中に魂を持ち帰らなければクビ」……という、上司の菊様の言葉だ。今年中。つまりタイムリミットは明日まで。)
(……あれから彼と一緒に過ごして、彼の事だけは随分と慣れた、と思う。たぶん、きっと、今なら、アーサーと、なら…………出来る気がする。
いや、できる、じゃなくて……したいな、とすら思ってしまう自分がいた。)
(ーーそうだ。私はアーサーのことを好きになってしまった。
悪魔として、1番のタブーは人間に恋をすること。恋という感情は非常に厄介だ。
恋に落ちると、悪魔としてやるべきこと、悪魔としてやってはいけないこと、悪魔として守るべきもの、それらを全て放り投げてでも"恋"という感情を優先してしまう。
過去に、人間と恋に落ちて魔界を追放されるサキュバスやインキュバスたちを何人か見た事がある。
私はそんなこと有り得ないだろうと思っていたのに!)
(ーーでも、この感情はある意味、仕事をする上では有利な感情だ。
他の男性と性行為なんて絶対したくないけど、恋する相手であるアーサーとはしたいと思うのだから。恋してなかったらしたい!なんて思わなかっただろう。以前の私に教えてあげたい。
私!大丈夫だよ!男の人と性行為したいと思える感情が私の中には存在してたよ!!絶対持ち合わせてないと思ってたけどあったんだよ!!)
(……でも。性行為をする、ということは、つまり……魂を奪うということ。
私達サキュバスにとって性行為とはそういうものだ。人間同士がする愛を育む為の行為とか、命を生み出すための行為とか、そういうものじゃない。
魂を奪うための儀式なのだと教えられて来た。
…でも私は、そう教えられても、ただの儀式だなんてそうは思えなかった。
だって魂のために知らない男の人と致すなんてほんと勘弁って感じじゃないですか。気持ち悪い。
というか非効率的過ぎるよ…魔術があるんだからもっとこう、ちょいちょいしてぽんと魂奪えるようになりませんか。いま二十一世紀ですよ。いつまでそんな非効率的なことしてるつもりですか。性行為反対…反対…うっうっ…)
(ーーは!
そうじゃないそうじゃない…結局おしごとしたくないですの考えに辿り着くけど…そうじゃなくて……。
…………アーサーのこと、死なせたくない。
アーサーの魂なんていらない…。でも、アーサー以外となんて出来る気がしない…。でもでも初恋相手をこの手で殺すなんて絶対にやだし…でもでもでも……
頭がぼんやりしてくる。眠いんだ。だから考えがまとまらなくてぐるぐるしてくるんだ。
とりあえず寝て起きてからまた考えよう…。)
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