名前:アーサー

スコーンの数172個目

撫でる!

(ある日の朝。
早く目覚めた私はオリバーさんがいない事に気付いて、外に出た。
海風で少し肌寒い。浜辺の方へ歩いて行くと、オリバーさんがひとりぼんやりと海を眺めていた。)



……○○。早いな、もう起きたのか?
○○といい菊といい、朝起きるの早いよな。菊なんか朝日が昇る前に起きて…なんだったか、朝のお祈り、ってやつをしに出て行くだろ。いつも感心してたんだ。
船に乗ってる時なんか、夜酒飲んで遅くに寝ることが多かったからな。目覚めたらもう昼、なんてことばかりだった。
今日はたまたま、…早く目覚めちまったから、暇だったしな。こうして散歩をしていた。
○○たちのおかげで、規則正しい生活が身に付いてきたのかもな。


(そう話すオリバーさんの隣で海を眺める。いつもの濃い霧が少しだけ薄い。
ああ、そうだ。商人が前回来てから、もうすぐで1ヶ月だ。)


…………以前、菊が言っていたが……この霧は、月に一度だけ綺麗に晴れるんだったよな。

(「はい。必ず、月に一度だけ。その日を狙って、商人が島へやって来るんです。霧が深いと島に船を寄せることもままなりませんから。」)

ああ、そうだな。島の周りは岩が多い。霧が濃いとそれも見えなくて船が岩に衝突しちまう。

それで……前回商人が来たのはいつ頃だ?


(「えっと確か、先月の……ああ、そうです、恐らくあと二日後くらい、ですかね。霧が晴れて商人の方が来ると思います」)


…そうか。………二日後、だな。


(そう言い、目を細めて霧で包まれた海を見た。

……オリバーさんは海を眺める時、たまに、こういう顔をする。
なんていうか、切ないような、哀しいような、でも、強い意志をもった瞳で、何かを睨むように海を見詰める。)

(…オリバーさんがこの島へ来て、もう3週間もたった。
彼は、自分のことをあまり話してはくれない。
一緒に過ごし、彼のことを観察して私が彼について気付けたことなんてごく僅かだ。

紅茶が好きなこと。動物が好きなこと。
私の作るお魚の煮物が好きなこと。
私が変な話をすると、少し困ったように笑うこと。
紳士的で、それなのに少し積極的で、女性の扱いに長けていて、若い男性と接する事に慣れていない私をいつも少しからかって。可愛い、と微笑んでくれる。)
(……島の外の男性というのは、みんなこういう感じなのかな。彼にこんなに惹かれてしまうのは、私が外を知らないだけ?
菊さんに、彼を深追いするなと言われる度に、逆に追い掛けたくなる。もっと知りたいなどと思ってしまう。)

(……けれど。商人の船が来たら、もうオリバーさんとはお別れだ。寂しいけれど、私には止める権利も、寂しいと口にする権利すらない。
オリバーさんと過ごした日々は、神様からのちょっとしたプレゼントだったんだろう。いい思い出として笑顔でオリバーさんを送り出せるように、心の準備をしてなくちゃ……。)