名前:西行寺 幽々子

189面ボス   (8でショートカット説明書)

餌を与える

封書を全て配り終えて幽々子の元へと向かう途中、音楽が聞こえていた
何だか不思議な曲だった
気持ちが落ち着くような昂ぶるような…
音も聞いたことのないものが混ざっている気がする


どうやら終わったみたいね
丁度良かったわ
今彼女達の演奏が始まったところよ

幽々子が俺の元に近付いてきた
手には酒を持っている


お疲れ様
桜を見て音楽を聴きながら乾杯といきましょう

幽々子と俺は乾杯をし、それぞれの器に入った酒を飲んだ
思えば俺がここに来てからどの位経ったのだろう
一度外の世界に戻ったものの、何だかんだでまた俺はここに来た
ここでの生活は、俺にとって最早かけがえのないものになっている


どうしたの?
そんな思い出深い顔をして

幽々子が不思議そうな顔で俺を覗く
何だか無性に恥ずかしくなったので、話を違うものに移す


…ん?
このお酒?
紫が持って来たお酒ね
どこから持って来たかまでは分からないけれど
貴方がそんな顔をしたということは、外の世界のお酒でもないのかしら

上手く話を変えられたようだ
ちなみにこの酒は確かに外の世界にはない気がする
だからまったく違うところからかもしれない


うーん…何のお酒かしら
まあ、美味しいから良いわ
…ねえ、貴方は今の生活をどう思う?

とても楽しい
出来るならばずっと続いて欲しい
それが本音だ


…そう
それなら良かったわ
ついでにもう一つ
私のこと…どう思う?

異性からのその質問は…つまり幽々子は…ということだろうか?
真意を知りたかったが、幽々子は顔を伏せてしまって見えなかった


私は貴方も知っての通り亡霊なの
未来はない
その私と一緒に生きるということは、未来を捨てることと同義よ
…何でしょうね
お酒のせいかしら
それとも妖忌のせいかしら
まったく…妖忌は私の心配ばかりして…
(クイッ)
ぷあー、おかわりー♪

さっきの雰囲気から一転し、途端に明るくなった幽々子
あの質問…もし妖忌が関係しているのならば、恐らく話の内容は…
クリスマスに俺に対しても似たような話をしていたし
質問の真意…推測は出来るが、結局それ以上は分からなかった
それにしても…
俺は思わず幽々子の身体を抱き締めていた
その明るさが、切なさを隠しているように見えたのだ
それに抱き締めておかなければ、桜の花のようにすぐに散って消えてしまいそうな…俺の見た幽々子はそんな儚さに包まれていた


ん…?
もしかして酔った勢いで私を襲うつもり?
生憎私はそこまで酔ってないの
おいたが過ぎると、いつの間にか死んでしまうかもしれないわよ
ふふ♪
まあでも…心地が良いしこのままでも良いかしら
どうせならもっと強く抱き締めて欲しいわ

幽々子はそう言って俺に身体を預けてくる
俺は幽々子の要望通り、抱き締める腕に力を込めた


…来年もまた、花見が出来たら良いわね
再来年も…10年後も…100年後…は流石に別れてしまっているかしら?
…ねえ
少し眠くなってきちゃった
このまま…少し寝かせてね…

幽々子はそう言うと、俺の腕の中で眠りはじめた
言葉とは裏腹に相当酔っていたのか、それとも疲れていたのか
俺は眠りについている幽々子の頬を撫でた
何故か、俺の指先が濡れた




おしまい
花見だよ06