初めて、俺の前で声をあげて泣いた。俺にしがみつき、脆さと儚さを晒した。
俺は幽々子が落ち着くまで、ただ抱きしめ続けた。
やがて身体の震えが収まり、幽々子はか細い声を絞り出した。
「……怖かった……貴方が私を捨てることが……貴方が何も変わらない私に絶望して……私を置いていくのではないかと……本当に、見捨てないでくれるの……? 私と、一緒にいてくれるの……?」
俺は腕に込める力を強めた。
「もちろんだ。絶対に、離さないから……俺を、受け入れてくれるか?」
しばらく間があった後、幽々子はゆっくりと顔を上げて微笑みを浮かべた。一筋の涙が頬を伝って輝く。
「うん……貴方……私も、一緒に……貴方と一緒にいたい……」
俺は思わず顔を綻ばせた。やっと、俺達の想いが通じ合ったんだ。
「ありがとう。生者も死者も関係ない、俺達だけの未来を作ろう。たくさん愛し合って、幸せになろう。俺が最期を迎えるその時まで……一緒にいよう」
「貴方……ええ……」
幽々子の顔が近付いてきて、そのまま軽く口付けを交わした。
「愛しているわ」
ぎゅ、と幽々子の腕が俺の背中に回った。
「貴方が天寿を全うするその時まで、私を離さないで……私も、ずっと貴方と共にいるから……」
「ああ、誓うよ。俺が生きている限り、幽々子の傍にいる。そして、お前を生と死のしがらみから解放する幸せを与えてやる……」
「ありがとう……貴方」
幽々子は今まで見たことのない、穏やかな笑みを浮かべる。はっとするほど美しいものであった。
「そして……これからも宜しくね」
「こちらこそ、宜しくな」
俺も笑みを返し、今度は俺の方から唇を重ねた。
ずっと幽々子と共にいる、そんな誓いを込めて。
その後、しばらく幽々子と抱き合っていたところ、不意に例のスキマが宙に開かれた。
「幽々子、いるかしら……って、あら?」
スキマから現れたBB……もとい、紫が、驚いた様子で俺達を見下ろしている。
俺の胸に顔を埋めていた幽々子は紫の方を向いて、
「あ、紫ー。私達、お付き合いすることになったからよろしくね♪」
と、いきなり爆弾発言を放ったのだった。
「はあ!? ちょっ、えっ、嘘でしょう!? 本気なの、幽々子!」
ものすごく動揺している紫。珍しい光景である。
それを面白がっているらしい幽々子は俺の首に抱きついてきた。
「本当よー。彼は私を虜にしたのだから。つい先ほど、ね♪」
「……貴方、一体何をしたのよ?」
紫は次に俺を疑ってきた。まあ、そう言いたくなる気持ちはわからなくもないが。
「特別なことは何もしていない。ただ、俺の気持ちを伝えただけだ」
紫は納得がいかないようだったが、やがて大きく息をついてスキマから出てきた。
「……そう。まあ、何はともあれ、親友が幸せなら祝ってあげないとね。おめでとう」
「ありがとう♪ そうそう、妖夢にも伝えなくてはね。行きましょう、貴方?」
そう言って幽々子は俺から離れて浮いた。その場でくるりと一回転して楽しげに鼻歌を歌いながら部屋を出て行った。俺も後に続こうと思ったその時、
「ちょっと待ちなさい」
と、紫の制止があったので俺は振り返った。
「何だ?」
「幽々子と何があったのかは知らないけど……」
一旦言葉を切って、紫は神妙な面立ちから得意げな顔つきに変わる。
「もし幽々子を幸せにしなかったら、外の世界に強制送還するわ。覚えておきなさい」
これは紫なりの祝福なのだろうか? 俺はふっと笑って答えた。
「肝に銘じておく。もうお前の世話にはなりたくないからな」
「私だって嫌よ。これ以上結界を不安定にはしたくないもの。ここで一発殴りたいところだけど、幽々子が待っているから早く行きなさい」
……どうして心の声まで聞こえるんだろう。夏祭りの時も散々暴行されたし、心で思うくらい許してほしいものだ。
とりあえず余計なことは考えずに、俺は急いで幽々子のあとを追いかけた。
庭の前で幽々子と合流し、木の手入れをしている妖夢を見つけた。妖夢は俺達に気付いて不思議そうに首をかしげた。
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