あと少しで王子○○に追いつかれる瀬戸際で、銀翼は一気にお城を離れていきました。

そしてその数秒後、遠くで鐘の音が再び響きます。すると執事なネズミは元のネズミの姿に戻り、全盛期のビックバイパーも元の冴えない丸っこい鳩のタイヤキ屋に、豪華な馬車もただのタイヤキ屋台に戻ってしまいました。もちろんイチデレラのドレスも元のボロボロなものに。

鳩(ビックバイパー)「ふぃー、危ない危ない……。あんまり飛ばせないからゆっくりで……」

かすかにタイヤキの屋台からすすり泣く声が聞こえます。後ろを覗き込むと、案の定イチデレラが頭巾で顔を覆いながらシクシクと泣いていたのです。

イチデレラ(一輪)「私ったら王子様に名前を告げることも出来なかった。魔法も解けてしまったしもう会うことも出来ないわ……」

フウと一息つく老いぼれ銀翼は適当な場所を見つけて着陸します。そしてタイヤキを焼くための材料や道具を取り出しました。

鳩(ビックバイパー)「老体に長距離飛行はしんどいからちょっと休憩させてくれ」

それだけ言うとタイヤキを何個かこさえたのです。

鳩(ビックバイパー)「魔女のおばさ……お姉さんが言っていただろう? えーと何だっけ? さっきまでの姿は心の内面だって。イチデレラちゃんだって本当は王国主催の舞踏会に招待されるような結構イイトコな家の出なんだろう?」

周囲をタイヤキを焼く良い香りが立ち込めます。焼きあがったタイヤキをイチデレラに差し出します。

鳩(ビックバイパー)「ならばいくら埃を被っても、誇りを失っちゃあいけないよ? ほい、いつものタイヤキ。これ食べて笑顔になってね」

イチデレラが悲しいときにいつも振舞われるタイヤキ。まるで異形の鳩の妖怪の本当は暖かい心をそのまま取り出したかのような温もりを持っていました。イチデレラはそれを受け取るとあむっと少しずつ食べ進めます。

イチデレラ(一輪)「ねえ、鳩のおじさん。どうして私に優しくしてくれるの?」

ホクホクと湯気の出るタイヤキから口を離し、イチデレラは訪ねます。すると少し考え込んだ鳩の妖怪はこう答えるのです。

鳩(ビックバイパー)「だからそれはイチデレラちゃんが可愛いから……」
イチデレラ(一輪)「真面目に答えて!」

いつもの口上をピシャリと遮断するイチデレラ。思わぬ反撃に驚いて目を見開いたビックバイパーはイチデレラから視線を逸らし、ポリポリと顎をかきながら空を見上げます。

鳩(ビックバイパー)「イチデレラちゃんにはお見通しってことか。分かった、ちゃんと話そう。でもな、今までのおじさんだって決してふざけてイチデレラちゃんを可愛いって言ったわけじゃないんだぞ」

シンと静まり返る夜の屋台、ビックバイパーはまっすぐにイチデレラを見据えます。その眼光は魔法もないのに、若かりし頃の鋭さを取り戻しているようにも見えました。



名前:聖白蓮
身体強化率326%

お姉ちゃん!

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