焼けるように体が熱い。だというのに内臓は、その体の芯は凍える程に寒い。無数の切り傷は熱せられた鉄の棒で抉られたかのように痛み、起き上がろうにもまるで見えない枷が我が身を縛っているかのように体の動きが鈍い。
ああ、私は負けたのだ。力では圧倒的に優勢だったのに、心で負けてしまった。そうだった、私の無二のパートナーは無茶ばかりするどうしようもない人間だったわ。あの子を庇う為に、私はあの子にされるはずだった仕打ちを受けた。
あの子? あの子の名前が出てこない。生意気ばかり言うくせにぐうたらで、そうかと思ったら確かめもしないうちに異変が起きればすぐに飛び出す。私の可愛い可愛い……。
関節のぎこちなくなった腕を伸ばし、泣きじゃくるあの子の頬に手を伸ばそうとする。
あと少し、あと少し……。真っ赤な大きなリボンをつけたどうしてだか、脇を露出させた奇妙な巫女服に身を包んだ……、ああなんてこと! こんなにも大切で愛おしい人なのに、名前が、名前が出てこない。
恐らくは脳にまでダメージが到達しているのだろう。もはや関節は固まってしまい、自由に曲げることもままならない。だめ、このままでは自我をも失ってしまう。
巫女「ゆかりー! しっかりしなさいよー! ゆかりー!」
ああそうだ、私はゆかり、誰よりもこの幻想郷を愛する八雲紫。自分の名前すら忘れかけていた。伸ばした私の手、その親指でこの子の流した涙を拭う。柔らかい、瑞々しい頬……。食べてしまいたい……いけないいけない。これ以上ここにいてはあの子を傷つけてしまう。そうする前に……。
私は誰も傷つけたくない。私の為に涙を流すあの子はなおさら。だから私はスキマへ避難することにした。もはや能力を行使するのも限界なようでスキマの淵が不安定に揺れ動いていた。よかった、間に合って……。境界を維持できている間に私はその身をスキマの中に投げ入れる体勢に入る。
紫「アイツは一人でどうこうできる相手ではないわ。私も傷が癒えたらきっと加勢する。だから泣かないで、決して激昂しないで。今は逃げなさい。そして、この幻想郷に希望をもたらす『エース』を頼りなさい……。れい……む、しばしのお別れ……よ」
ああ霊夢、あの子は霊夢。涙を拭った指が離れ我が身がスキマへ吸い込まれるその時に、あの子の名前を思い出した。
だけれど、今は愛おしい霊夢と一緒にいるわけにはいかない。愛おしい、大切な存在だからこそ……。
私は最期の力を振り絞り、何とか開いたスキマの中に身を投じた。
→
名前:聖白蓮
身体強化率326%
お姉ちゃん!
お気に入り登録
/
登録済み一覧
セーブデータ
新規登録・ログイン・マイページはこちら