おかしい、サビに入ったというのに未だ紫色のワープ空間を抜けていない。
処理落ちでBGMとのシンクロがずれているのだろうか? 少し興ざめ。それにしても随分と長いな。
急にBGMにノイズが走り始める。耳障りだ。画面までもが揺らぎ始めて本格的に故障したらしいことが素人目にも分かる。店員を呼ぶか……。そう筺体を降りようとしたが……。
降りられない。どういうことだ? 文字通りのことなのだ。どこを見渡しても見慣れぬ機械。まるで本当にコックピットの中にいるような錯覚さえ覚える。あり得ない事象に頭が混乱する。
「Watch your back!!(背後に注意!)」
混乱するこちらのことなど無視してシステムボイスが鳴り響く。というか背後だって!? ありえない、何かの間違いではないのか? このゲームで背後から敵の攻撃を受けるだなんてことはない。大体後ろからの敵をどうこうする手段なんて持ち合わせていない。仕方ない、回転するように動き回って追跡を振り切るしか……。
ズガーン! と衝撃が走る。まるで本当に被弾したかのようなリアルな感覚。機体が大きく揺れ、モニターからはアラート音が鳴り響く。機械がオーバーフローしているのか、時折煙を上げている。
リアルすぎる。まさか……、いやそんなはずはない。でもこれはまるで……、「アールバイパー」の中にいるとしか考えられない。というかゲームで被弾したならさっきみたいに派手に爆発するはずではないか。そうだ、これはゲームじゃない。リアルで起きている事なんだ。
信じがたいが、今置かれている状況をまとめるとそのような答えに導かれてしまうのだ。
いつの間にかゲームの世界に迷い込んで戦死する。冗談じゃない! そんな理不尽なことで死んでたまるか! 機体のスピードを最大にし、ワープ空間をフラフラと飛び続ける。出口が見えてきた。
愕然とした。宇宙空間に忽然と現れるはずの大要塞などどこにもない。というか宇宙ですらない。地球に戻ってきてしまったのか。再び後ろで爆発音が響く。エンジンに無茶をさせたからか。どんどん高度が下がっていく。
突然目の前に大きな山が現れる。このままではぶつかってしまうだろう。折れてしまうのではないかというくらい操縦桿を傾ける。山腹をかすめるアールバイパー。最悪の事態は免れたようだ。
しかし再びズガンと衝撃が走る。更に高度が落ちる。眼下には流れの激しい川が広がる。落ちてたまるかと、自分は踏ん張った。もっともそれが意味のある行動なのかは分りかねるが。急流地帯も抜けたようだ。
いけない、今度は森に突っ込む……! しかしもはや操縦桿は意味をなさず重力の赴くまま、自分は自機ごと墜落していく。
そして今までよりも大きな衝撃がわが身を襲う。ついに墜落した。だがそれではまだ終わらずバウンドし始めた。木々をどんどんなぎ倒している。そうして落ちた後もしばらく地面を滑り込み、森林地帯のど真ん中でようやく止まった。
キャノピーをこじ開けて自分はアールバイパーから這い出すように脱出したのだ。そうして俺は初めて自機を目の当たりにした。当然だがデカい。機体の先端が左右に分かれているという独特のデザインを持つそれはほとんど鉄クズ同然となっていた。生まれて初めて見る実物のアールバイパーなので惜しいが、これは乗り捨てていこう。とても運べるようなものじゃない。
幸いにも(というか奇跡的にかも)大きな怪我はしていないようで、自分の体は自由に動く。
ひとまず出口を求め森の中をさまようことにした。まだ陽が高いのが不幸中の幸いである。
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名前:聖白蓮
身体強化率326%
お姉ちゃん!
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