地上から遥か高く、雷雲の中で「それ」はゆっくりと蠢いた。黒い雲に紛れた「それ」は轟音と共に落ちる稲妻による一瞬の光でのみ姿を確認できる。

細長い、細長い物体であった。いや、厳密には節々が細くなっており、まるで機械の蛇のように無数の関節を持っているものだと思われる。濃い紫色の長い体が特徴的であったが、頭頂部のトサカだけは黄金色に輝いていた。その威厳に満ちた姿はまるで龍であった。

再び雷鳴がとどろいた。その巨大な空飛ぶ龍と対峙するのは一人の少女である。赤く長いヒゲをなびかせた真っ黒い帽子をかぶり、フリルのついた薄赤色とも薄桃色とも取れる羽衣を身に纏う淑女。黒のロングスカートではその中身は分からないが、細長い脚を持っているのであろう。彼女の名は「永江衣玖」。雷雲の中を泳ぎ、とある天人に仕えるリュウグウノツカイの妖怪である。

衣玖「ま、まさか龍神様? いえ、そんな筈は……。では貴方は何者? 貴方からはこの幻想郷とは違う空気で満たされている」

紫色の龍はよく見るとあちこちにキズを残している。その動きも機敏さを微塵にも感じられないものであり、手負いであることが分かった。

衣玖「怯えているのですね、追手から逃れてきたと言ったところでしょうか? ふふっ、驚きました? 貴方の醸し出す空気がそう私に語り掛けてくれたのです」

敵ではないと悟ったのか、紫の龍は衣玖に寄り添うようにとぐろを巻いた。そして再び落雷。今度は別の姿を映し出していた。

巨大なカジキマグロ……いやミツクリザメだろうか? とにかく奴は頭部に鋭利なツノを持った空飛ぶ物体であった。敵意を持ってこちらに向かう影を見て、淑女はフウとため息を一つ。フリルの付いた羽衣が彼女の腕に巻き付き始める。先端が尖がる様な形で。それはまるでドリルのようであった。

衣玖「あれが恐らくは追手なのですね。いいでしょう、この辺りは龍神様や私の大切な人が平穏を生きる場所。その空を脅かすのならば、私は全力をもってして抵抗するまで。……いざっ!」

一際大きな雷が落ちた。雷雲の中、二つの勢力が正面からぶつかり合う……!



名前:聖白蓮
身体強化率326%

お姉ちゃん!

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