衣玖さんが呼び寄せた黒雲は晴れることなく、今もザアザアと月の裏側に雨を降らせていた。周囲も暗くなってきて視界がまったくきかない。時折轟く雷鳴が周囲の様子を映し出している。シーマの襲撃を受けて破壊された月の都の残骸を、シーマに蹂躙されたという事実を突きつけ続けていた。

貴方「高度な文明を持ち、栄華を極めた月の都もこの有様か。まさに『文明の墓』といったところか」
サグメ「……」

そんな廃墟にサグメが悲しそうな表情で目をやる。アールバイパーのコクピットに乗り込んでいる片翼の月の民のボソボソとした声、それは俺の真後ろから聞こえてきたがその内容までは聞き取れなかった。

貴方「黒幕を懲らしめたら都の復興に尽力しよう。命蓮寺の皆も協力してくれるはずだ」

振り向いて今も冷たいサグメの指先をギュッと握る。口元にあてていた手をそっと俺の手の甲に添えていた。

サグメ「……(コクコク)」

神妙な面持ちをしていたのはサグメだけではない。衣玖さんも何か思う所があるようで、いまだに傷の癒えないダークヘリオスに手を当てながら気をかけている。

衣玖「この豪雨はシーマ達の流している涙、雷鳴は鎮まらない怒りです。無理矢理戦争の兵器に使われたシーマ達の……」

既に能力の行使をやめても嵐は収まらなかった。そうなると衣玖さんがそう言うのも納得がいく。そしてこの大雨が廃墟を半分ほど水没させており、文字通りの「月の『海』」になっていた。

感慨深くなりながら暗黒の中を進む。雷鳴が今も廃墟の姿を浮かび上がらせる。



名前:聖白蓮
身体強化率326%

お姉ちゃん!

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