首領蜂隊に囲まれて、もはや能力の行使も新たなシーマ艦の建造能力も失った純狐は恨めしそうにこちらを睨み付けている。

衣玖「終わり……ましたね。暴れるシーマも居なくなったことですし、いずれ月の民も戻ってくるでしょう」

後ろでサイバリオンもグルルと喉を鳴らしている。あの二人は本当に仲良しになったようだ。周囲を見渡していると誰かが俺の裾を引っ張ってきた。振り向くとその月の民の一人であるサグメが少し顔を俯けつつこちらを見ていた。

サグメ「……」

もっと顔を近づけるようにと手招いている。何事かと思い顔を近づけると、彼女は耳元でボソボソつぶやく。

サグメ「私の星を救ってくれてありがと。感謝の気持ちは多いけど、私は無暗に口に出せないから……」

それだけ手短に話すと、耳元に微かに吹き付けられた湿った空気が俺の頬をも撫でる。その直後、柔らかな感触と控えめに頬を吸う感覚を覚えた。これは……もしかしなくてもキスだ。

サグメ「今のは皆にナイショよ///」

驚く俺の表情を至近距離で見ながら口元に指を当てて悪戯っぽい笑顔を見せるサグメ。とはいえ、本人も照れ臭かったのか、そのあとサッと距離を取ってしまった。

俺だってこんな事、とても人には言えない。ま、まあサグメなりの感謝を示す挨拶だと受け止めておこう。彼女が言う通りに能力ゆえに無暗に言葉を紡ぐことができないようだし。

さて、ドレミーが保護している月の民がここに戻って来て純狐を捕えたら、都の本格的な復興も始まるだろう。地上にいる白蓮さん達も月に招いて復興の手伝いをしなくてはならない。

そういえば朱理はこの後どうするんだろう? ここにたどり着き、目的を果たすまでは実に困難であった。俺達誰一人欠けてても成し遂げられなかった勝利であろう。それはもちろん首領蜂隊から派遣された彼女も例外ではない。

だから俺は今も俺達ごと純狐を取り囲んでいる朱理と多くの兵器達に向き直った。

貴方「朱理もありがとう」

しかし、朱理の表情が明るくなることはなかった。

朱理「大佐より入電。地上に向けてのメッセージのようだけど、○○にも用があるみたい。ホログラムを出力するわ」

大佐、ロンゲーナー大佐。その名前を思い出した矢先、俺が抱いていた不安が再び大きくなった気がした。何か企んでいていつ何を仕掛けられるかと警戒していたものの、朱理も何だかんだで人間臭かったし、ここに至るまで特に何も起こらずに警戒心も解けつつあった。だが、相手はあの大佐だ。奴は今だって何を考えているのか分からないような男であるのだ。

朱理の目が光り、そこから立体映像が浮かび上がる。そこに映っていたのは無数のライトを後ろから浴びた長い白髪をオールバックにした軍人であった。あの特徴的な姿を見間違うはずはない、ロンゲーナー大佐だ。



名前:聖白蓮
身体強化率326%

お姉ちゃん!

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