リリー「春ですよー、春ですよー!」

もう晩夏だというのに壊れたラジオのようにそう騒ぎ立てながらくすんだ桃色の弾幕をまき散らしている。いや、投げつけているという表現の方がしっくりくるか。

チルノ「春はもう終わってるよ!」

リリー「春ですよー、春ですよー!」

駄目だ、会話が成り立たない。今も友人の言葉などどこ吹く風と言わんばかりに弾幕を投げつけて周囲の妖精に攻撃を加え続けている。緑髪をした大人しそうな妖精が泣きながらその猛攻から逃げ惑っている。

大妖精「ううっ、ぐすっ……リリーちゃん……」
チルノ「大ちゃん、もう大丈夫だよ。あたいが認めたマナデシを連れてきたから」

どういうわけか妖精最強のチルノですら手が付けられなくなっているというのだ。季節外れの春の妖精がチルノを凌駕する……。やっぱりこんなのおかしいよ! いや、一つだけ可能性がある。

だが、それを認めてしまうということは……。そうやって思考を巡らせまいと頭を振るが、妖怪の山山頂での豹変した神奈子の姿が脳裏に浮かぶ。そんなまさか! だって神奈子さんは結局大丈夫だったじゃないか。そんなこと……、そんなことあり得ない……!

リリー「春デすよー、はルでスよー!」

古ぼけて音が所々飛んでしまうレコードのように同じ言葉を復唱する。それはどう見ても狂っているようにしか見えない。そしてついに彼女と目が合ってしまった。琥珀色をした彼女の目と……。

提督「この感じ……私に似ている。これはつまり……『そういうこと』だ。恐らく放つ弾幕はバイド物質だろう。○○よ、覚悟を決めるんだ。奴を放置するわけにはいかない」

バイドだ。彼女はバイド化しているんだ……。この忌まわしき呪いから彼女を救うためには……。

貴方「殺す……、バイド汚染から解放するにはその肉体を滅ぼすしかない!」

頭では分かっていた。だが、体が動かない。操縦桿を握る手がガタガタと震える。な、何をいまさら……。俺は幾度となく幻想郷の希望として侵略者どもに手をかけてきたではないか。今度だってそうだ。乗っ取られて、でもそのことに気が付けずにバイドの尖兵と化した彼女を屠るだけだ。やっていることは前と変わらない……だというのに動けない。

人の形をしているから? いずれ愛する人を手にかけなくてはならなくなるかもしれないから?

俺は……俺は……




名前:聖白蓮
身体強化率326%

お姉ちゃん!

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