それにしても背の高い向日葵ばかりで方向感覚がくるってしまう。今は夕方なので太陽の向きが西であることが分かるのが幸いである。

だけど、ここを脱出して俺は何をすればいいのだろうか?

おそらく紫のような強大な妖怪がいるこの幻想郷。夜になればさらに獰猛な化け物が出てくることは想像に難くない。ここから逃げたところで他の妖怪に襲われては結局助からない。

だからといってこの畑にいるうちは幽香に怯え続けなくてはならないし、いくら広大で背の高い向日葵畑の中とはいえ、見つかるのも時間の問題だろう。何せ被害者であるはずの俺にあんな仕打ちをしたくらいだ。話が通じるとはとても思えない。

そうやって思索を巡らせていると、どこからか微かな声が聞こえた気がした。すすり泣くようなか細い声が。もしや俺みたいに幽香に捕まった可哀想な人間だろうか? だとしたら味方にしてこの窮地を一緒に打破する力にすることが出来る。俺は声の元へと駆け寄った……が、途中で足を止めた。

貴方「今の声は幽香か!?」

恐らく紫の配下が俺を探す為にこの辺りを荒らしながら進んでいったのだろう。ここだけ黄色い絨毯が途切れており、その中心にはズタズタに引き裂かれた向日葵の花を手にシクシクと泣いている幽香がいたのだ。

幽香「ごめんね、ごめんね……」

俺はあんな荒々しいことはしていない。やったのはお前と同じ話し合いなんてする気のない野蛮な妖怪どもの仕業だ。そんなメソメソしてないで、その自慢の腕力とやらで仕返しでも何でもすればいいじゃないか。

まったく、俺をふん捕まえようとしてこんなに荒らしやがって……そうか、そういう意味では俺も原因の一つと言えなくもない。とにかくあんなに荒々しかった彼女がこんなに悲しそうに涙を流している姿があまりに異様で俺はここから動くことが出来なかった。

そうしているうちに俺は幽香と目が合ってしまった。反射的に俺はジリと後ずさりしてしまう。

幽香「あ、アンタどうやって……?」

背後にはウネウネと触手を揺らしながら浮遊するフリントの姿があった。

幽香「チッ、仲間がいたのね。それでここから逃げる気なの?」

未だに涙目になっているその両目でこちらを睨みつけると幽香は無駄よと手を払いのけながら続ける。

幽香「言っておくけど外来人のアンタに逃げ場なんてないわよ。仮にこの太陽の畑を抜けたところで夜は妖怪達の世界。何の武装もない人間が生きていけるような生ぬるい場所ではないわ!」

グスグスと涙を拭いながらも凄む幽香。やはり、今の俺に逃げることは出来ないようだ。だが、俺はある決意を固めていたのだ。俺はキリっと面持ちを引き締めると真っ直ぐに幽香に向き直る。




名前:聖白蓮
身体強化率326%

お姉ちゃん!

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