しかしその長い爪が僕の頸動脈を切り裂くことも、鋭い牙が喉笛を喰い千切ることもなかった。どういうわけか、橙はその場で震えていたのだ。
橙「できません……。私にはできませんっ……!」
最初は搾り出すようにかすかに、だが二言目にはハッキリと、橙は主の命に背いたのだ。ついにはその場にしゃがみこんで頭を抱えてしまった。
藍「妖怪が人間を襲って何がおかしい? それに私がやれと言っているんだ。命令だ! そいつの喉笛を噛み切ってやれ!」
苛立ちを隠さずに怒鳴りつける九尾であったが、それでも橙はまるで動こうとしない。理由は分からないがこの黒猫の妖怪はブルブルと震えているようにも見えた。
そうしているうちに僕は何か見慣れた影が竹林を飛び回っているのを見た気がした。白黒の魔女のような服装をした少女が箒にまたがっている。
霖之助「あれは……!」
この僕に限って白黒の魔法使いを見間違うはずがない。あれは魔理沙だ。妙な異変が起きているからなのか、あるいはこんな異変が起きているのにいつまでも霊夢が姿を現さないことを不審に思ったのか、とにかく魔理沙がこの辺りを嗅ぎまわっているらしい。
やるしかないっ、霊夢のことを伝えるんだ。橙が今も動けないという大きな隙をさらしている今しかない! 僕は足がもつれるそうになる中、竹林を再び走った。大丈夫、今度は目的地が見えている。あの白黒に向かってひた走ればいいんだ。
とはいったものの、この妖獣達を出し抜けるのなんてほんの数秒にも満たない。すぐさま九尾の影が僕のすぐ後ろにまで伸びてきた。今度こそ捕まえるつもりなのだろう。
僕は魔理沙のところまで行けない。そう悟った。しかし、僕自身ではなくて僕の声ならば……!
霖之助「魔理沙っ!!」
その九尾の怪力で僕が組み伏せられる寸前に、あらん限りの声で叫んだ。そして、それは伝わったようだ。白黒の少女がこちらに気づいて近づいてくる。
勝ったぞ、僕は無事ではないかもしれないがあとは魔理沙がなんとかしてくれる……。そのためには伝えなくては、あの「真実」を……!
→
名前:聖白蓮
身体強化率326%
お姉ちゃん!
お気に入り登録
/
登録済み一覧
セーブデータ
新規登録・ログイン・マイページはこちら