夕飯の味は忘れた。あんな事があった直後なので頭が混濁しているのだ。今日はもう寝てしまおう。俺が聞きたかったことは白蓮が代わりに聞いてくれるだろう。
明かりを消し布団に入り込む。意識が遠のき始めたころ……。
わずかにふすまの開かれる音がした。消えかかった意識は急覚醒。体を起きあげて侵入者が何者か見据える。
ふすまを開いたのは妖夢……? いや、違う。
貴方「お前……半霊か?」
妖夢の姿をした彼女は無言でコクリとうなずく。なるほど。暗くてよく分からんが、これだけ人懐っこいのは半人のほうではなく紛れもなく半霊のほうだ。よしよしと頭を撫でてやる。気持ちよさそうに身をよじると俺に身を預けてきた。
貴方「おいおい、こんなところ見られたら俺の命がいくつあっても……」
だが彼女は離れようとしなかった。そうなのだ、俺は最初はともかく半霊を無理に俺の傍に置いていたわけではない。妖夢本人がいくら俺に嫌悪感を募らせても、この愛らしい真白な生命体は俺のことを避けたりはしない。
それは妖夢が見つかった後も変わらない。最初は本来のパートナーが行方不明であることによる不安感から来たものだと思っていたが、妖夢が見つかった後もこの様子である。確かに半霊は妖夢の体の一部ではあるのだろうが、心は別に存在する。そんな気がしてきた。
「ありがとう……」
不意に少女の声でこう聞こえた気がした。誰か他にいるのか? 今までも言葉をまるで発していなかった半霊が喋っているとは考え辛いし他に誰かが……!? 声の主を探しキョロキョロとあたりを見回す。
と、いきなり妖夢……もとい半霊の顔がすぐ近くにまで迫っていた。俺がそれを認識するかしないかの瀬戸際で……
(ちゅっ)
限りなく口元に近い場所の頬に柔らかな唇の感触。紛れもなくキスであった。そうか、さっきの感謝の言葉の主は……。そしてこの行為もありがとうって気持ちをダイレクトに伝えるための……。
って、そんなことはどうでもいい。呆然としつつ血の気が引いてくる俺。理由はどうあれ、相手から迫ってきたとはいえ、この事バレたら殺される……
貴方「『ありがとう』って言いに来たんだな。ちゃんと伝わったぞ。さあ、妖夢が心配するからもう帰るんだ。お前は妖夢の半霊。俺の傍じゃなくて、そっちにいるべきなんだ。最後にちゃんと挨拶できて俺は嬉しいよ。半霊、俺からもありがとう。そして、さような……」
しかし妖夢の姿をした半霊は小さく欠伸をすると元のお餅のような姿に戻ってしまっていた。その姿のまま勝手に俺の布団にもぐりこむ。オイオイ、正気かよ……
いくら呼んでも揺らしても布団から出てくる気配はない。替えの布団もないし、まして半霊を妖夢の元に送り届けるなど自殺行為だ。布団から追い出すのも可哀そうだし……。そうなると残された選択肢は一つ。
貴方「添い寝……か」
十二分に危険度が高いが送り届けるよりはマシだろう。姿が妖夢ではなく元のお餅のような姿に戻っていたのは不幸中の幸いだ。俺は意を決して布団の中に潜り込んだ。待ってましたとばかりにすり寄ってくる霊魂。ふふ、涼しげでいい感じの抱き枕だ。
俺はこの不思議な不思議な半霊と同じ布団の中で一夜を明かした……
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名前:聖白蓮
身体強化率326%
お姉ちゃん!
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