しばらくぶりに感じた焦燥。サイビット・サイファを覚えてからは感じなかったもの。青娥が何を指示したのか、俺には分かってしまったのだ。
ネメシス「マ、マスター……クルシイ」
芳香がネメシスの両腕と両脚を引っ張り始める。ギチギチと関節がきしむ音。
青娥「○○のことは色々と調べさせてもらったわ。戦い方の癖、価値観、そして弱点までも。自分ではない大切な誰かが傷つくさまを見せつけられることを何よりも嫌う。あの魔住職サマと一緒でね……さあ芳香、引っ張るだけでなくねじらないと」
人間だったらまず命はない程に体を捻じ曲げられる。
貴方「やめろっ、やめてくれっ! それだけは……」
その悲痛な叫びを聞いて青娥はフムと考え込む。
青娥「芳香、一旦ストップ。力を弱めなさい。芳香にお人形さんを引っ張るのをやめてほしければ○○、負けを認めなさい」
考える暇などない。俺はすぐに了承した。ここでの勝敗はネメシスの無事に比べればちっぽけのものだからだ。俺はアールバイパーから降りて戦意がないことをを示した。
青娥「いい子ね○○。芳香、もうその子に危害を加えちゃいけませんわ。返してあげないと」
芳香からネメシスを受け取り、青娥が近寄ってくる。これでいい、これでいいんだ。今も痛々しく関節があり得ない方向に曲がってしまったネメシスを受け取る。早く修理してあげないと。そんな彼女と一瞬目が合った。
ネメシス「ァ……」
青娥「(ニヤリ)」
不意に青娥が手にしていた簪を振るう。ネメシスの胴体が袈裟斬りに真っ二つに割れてしまったのだ。
一瞬何が起きたのかわからなかった。俺も、ネメシス本人も。大事なものが突然ポッカリと抜け落ちてその先に見えた真っ白な虚無が脳内全体に広がる感覚。
青娥「くっくくく……あっははははは! まだ何が起きたのか分からないようですわね。その子は死んだのよ。胴体を真っ二つにされてね! 油断が過ぎますわ○○。その結果最も近い距離で最も残酷な方法で大切な仲間を失う瞬間を見てしまった」
真っ白い虚無は怒りの炎へと変わる。一度希望を与えておいて再び絶望の底へ叩き落とす。それを故意にやってのけた。こちらの精神をズタボロに壊すために。
貴方「き、きさっ……まぁぁぁぁぁ!」
今も高笑いを続ける青娥はゆっくりとその高度を上げていく。俺は再びアールバイパーに乗り込むと魔力という魔力を収束させる。もはや痛みなど感じなかった。
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名前:聖白蓮
身体強化率326%
お姉ちゃん!
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