和やかな時間が過ぎる。なるほど、今日が何の日なのか知った上で人通りを見てみると男女のペアがそこはかとなく多いような気もしないでもないことに気が付く。

そして、そんな彼らを見て悪態をつく独り身の皆さんも多い。皆、殺気立った眼差しでカップルどもを睨み付けている。

独り身の男A「何がバレンタインデーだよ。相手もいなけりゃ意味ないですよーだ! ブツブツ……」

独り身の男B「あーあ、今年もバレンタインデーは中止にならなかったな……」

独り身の男C「くそぅ、カップルどもが眩しくて羨ましくて……。邪魔してやりたいけれど、そんな力も度胸もないし……」

少し前の俺もあちら側の人間だった。だが今年は作り過ぎて余ったものとはいえ、チョコレートを貰っている。しかもこうやって二人並んで他愛もない事を会話していて……。

ん、待てよ。それは今の俺も甘い日を二人で過ごすカップルに該当するのでは……? いやいや、そんなやましい気持などこれっぽっちも……

ブンブンと頭を振っていると、突如甲高い悲鳴を耳にした。見ると人里の住民達が何かから逃げ惑っているようだ。

貴方「妖怪かっ……!」

低いうなり声のようなものをあげながら、まるでこの世に未練を残したゾンビのように詰め寄りながら人間を襲いはじめている。まさに魑魅魍魎。

里の女A「あっ……! 貴方に渡そうとした……」

里の男B「そんなものにかまっている場合じゃないっ! 殺されるぞっ!」

魑魅魍魎「ヴアーーーッ!!(グシャ!)」

里の女A「ああっ! 折角早起きして作ったチョコレートが奴の足で……」

何て奴らだ。バレンタインデーで浮かれて油断しきった人間達を次々と襲っている。恋人たちの日は一転、阿鼻叫喚の渦となった人里を、俺は早苗さんの手を握り締め走り抜けていた。

このまま生身で戦うのは危険だ。それに今は情報が欲しい……。幸い奴らの足は遅いようだったので、彼女の手を引いてひとまずアールバイパーを隠していた裏路地まで走る。

魑魅魍魎「ウンガァーーーっ!!」

里の女B「折角だーりんの為に編んだマフラーが引きちぎられて……」

里の男B「今はそれどころじゃないだろう! そんなものは捨てて早く安全な場所へ!」

里の女B「『そんなもの』!? 酷いわ! 寒さでかじかむ指で夜なべして編んだのにそれを『そんなもの』呼ばわりなの!!」

里の男B「いや……でも……」

里の女B「もう貴方なんて知らないっ! 顔も見たくないっ!!」

里の男B「ま、待ってくれ! こんな時に一人で行動したら……」

この非常時だというのに、ここのカップルはケンカ中である。頭を冷やして考えれば逃げることが最優先の筈なのに……。

そんな修羅場とそれを引き起こしている魑魅魍魎どもが行く手を塞いでいた。仕方がない、適当な建物に潜り込んでやり過ごすことにした。

早苗「あれ、ここって寺子屋ですよね……」

しめた、大きめの建物に駆け込んでみたら寺子屋じゃないか。先生なら何かしら情報を持っている筈……。

噂をすれば何とやら。乱暴に建物に入り込んだ俺たちの前に慧音先生が現れる。はじめは怪訝な面持ちだったが、俺たちであることを確認すると表情を和らげた。

慧音「お前たち……。そうだ、見ての通りだ。突然人里の人間達がおかしくなってしまったんだ!」

里の人間が!?



名前:聖白蓮
身体強化率326%

お姉ちゃん!

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