陽の当たらない薄暗い通りで俺の感情と肉体がクールダウンされる。しまった、自分で勘定しないうちに店を飛び出してしまったぞ。とりあえずさっきの店に戻って……

っ! 冷徹な視線を感じ、俺は振り向いた。

メディスン「貴方はあの忌まわしい銀翼の乗り手ね? まさか鈴蘭毒で性別が反転するとは思わなかったけれど、随分とめかし込んじゃって……もしかして目覚めちゃった?」

こ、コイツのせいで俺がどんな目に遭っているか……。ふつふつとわき上がる怒り、憎悪。しかしアールバイパーの無い俺にどうこう出来る手立てはない。ただ睨みつけて憎しみをぶつけるだけだ。

貴方「それよりこの人間のテリトリーに何故お前のような妖怪がいる……?」

まさか仕留め損ねた俺にトドメを刺すべく人里近くをうろついていたとか……。ところがそんな物騒な答えではなかった。

メディスン「スーさん用の衣装を探していたの。あとは……この子の分もね。人形だってオメカシは大好きなのよ? それじゃあ私は忙しいから」

仮にも人里、こんな所で襲う真似はしないようである。……って待て、スーさんだけではなくネメシス人形の姿まであるではないか。どうにか取り戻そうと画策する。

貴方「お前……よくも堂々と盗んだ人形を連れだして……。おい、ネメシス! 俺だっ、○○だ! さあ、早く帰ろう」

この上海人形は簡単な命令ならしっかりとこなす特別製だ。ほんの数メートルを浮遊することなど造作もない筈……。だが、ネメシスは動き出す気配がない。……魔力切れか?

メディスン「『人形を武器にするような野蛮な人はもう嫌だ』ですって」

貴方「で……デタラメだ! おいネメシス、まさかお前を作った俺を忘れてしまったのか?」

はたから見れば人形に話しかける危ない人。だが、ネメシス人形が動く気配はない。その様が余程滑稽だったのか、カラカラと笑うメディ。

メディスン「あっははは……。散々武器としてこき使って、いざって時は作った恩を思い出せだってさ……。見たかいネメシスちゃん、コイツはそうやってすぐに手の平を返すような薄情な人間なのさ」

だが、よく見るとメディスンの語りかけにもネメシスは反応を示していない。……そうか、今の俺は姿も声も全然違う。元の俺だとネメシスが認識できる筈もない。ならばあの時のように力ずくで取り返すか? 一瞬頭をよぎったがやめた。更に陰湿な毒を撒き散らされる可能性もあるし、腕力も女体化によって弱くなっているとも考えられる。

メディスン「いっそのこと心も女の子になったら花の大切さにも気が付けるんじゃないの? 面白いから殺すのはやめてあげる。そうやって何もできずに指をくわえて人形解放運動が達成されるのを見ていなさい」

こんな捨て台詞を吐いてネメシスと共に立ち去って行った。打つ手なしの俺はそれを文字通り指をくわえて見ていることしか出来なかった。

悪態をブツブツとついていると白蓮が追いついてくる。

白蓮「よっぽど気にいったのですね。あんなにはしゃいで飛び出して……。ところで誰かとお話していませんでした?」

まだ服の件では勘違いしていたが鋭い質問も同時に投げかけてきた。この辺りが白蓮を白蓮たらしめている。ただのおっとりポケポケお姉さんではないのだ。真実を知らせるいい機会なのでメディスンと出くわした旨を伝える。

白蓮「メディちゃんねぇ……。そういえば前も鈴蘭の毒でどうのこうのって言っていましたね。記憶を無くした貴女にはどうして毒でそのようにされたのかを知る術はありませんよねぇ」

あ、待てよ……。白蓮は「命」としての俺を気遣う一方で本来の「○○」としての俺の安否も気にしていた筈だ。ネメシス人形を見かけたと言えば……

貴方「そうだ、メディスンは上海人形を持っていた。そしてその子とお話していた。確か名前は『ネメシス』って……」

一瞬で白蓮の表情が引き締まる。ビンゴだ、○○がアールバイパーと一緒に大切にしていたものだ。行方不明になった○○の重要な手掛かりになるはずなのだから。……もっとも答えは目の前にいるのだが。

白蓮「○○さんの手掛かり……。んんん……、でも命さんを一人で放っておくわけにもいかないし……。ええと、一度命蓮寺に戻りましょう。○○さんも命さんと一緒で、私の大切な仲間なんです。命さんが命蓮寺に駆け込む少し前に行方をくらませてしまったのですが、メディちゃんなら何か知っているかも」



名前:聖白蓮
身体強化率326%

お姉ちゃん!

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