扉越しにしか話せない、切ないけどそれがルールなんだって
彼は漠然とそんな話を思い出していたんだ
迷信だとは思ってたけど、「彼女と話した様になった気がしたら」 いくらか心も休まるかもしれない…そう思って、やって見る事にしたんだ

深夜2時ちょっと前
アパートの門を開けて、生前に彼女が気に入っていたワンピースを抱き締めて蝋燭を灯し、部屋の灯りを消し、彼女の「蘇り」を想像した
アパートは古くて、上の教会(彼の部屋の天井なんだけどね)から、何だか水漏れの様な音がする
ピチャッ…ピチャッ…部屋のどこかに水滴が落ちているらしいけど、集中して…生前の…綺麗な姿で…彼女が微笑みながら…部屋にお茶でも飲みに来る様な…

ドンドン ドンドン

彼はハッ、と目が覚めたんだ
…いつの間にか寝ていたみたい

ドンドン ドンドン

何の音…?隣の住人?隣人も夜型の人だから、うるさ

ド ン ド ン ! !  ド ン ド ン ! !

…違う
自分の部屋の玄関のドアを、誰かが叩いている…時計を見ると、深夜2時50分…
こんな時間に友人…?とは考えにくい…まさか
流石に冷汗が彼の額を伝う
蝋燭を手に持ち、恐る恐る、玄関に近づくと叩く音が止んだ

「…誰?」
返事がない
「××か…?」

彼女の名を呼ぶけど、返事が無い
恐る恐る、覗き穴から覗く
長い髪の女が、後ろを向いてドアの前に居た!!

「××なら答えてくれ…」
青年の心に楽しかった思い出の数々が蘇った

「寒い…」
ふいに、女が口を開いた
彼女の声の様な気もするし、そうではない気もする…
「寒い…中に入れて…○○」

女は青年の名を呼んだ
抱きしめてやりたい!!
青年はそう思って、ルールの事など忘れて、ドアを開けてしまった
女は信じられないスピードで、後ろ向きのまま、スッ、と部屋に入った
青年が顔を見ようとするが、長い髪を垂らし、俯いたまま必ず背中を向ける
青年が近づこうとすれば、スッと距離を置く…

彼が…
それでね…