「とりあえず、ベッドにでも腰掛けてくれよ…」

そう言うと、女は俯いたままベッドに腰を落としたんだ
でもね…たまらない臭いがするんだ、何か生臭い様な…おまけに彼女が歩いた跡に、泥の様なモノが床にこびり付いていた
それでも彼は色々と話したい、そう思って2人分の紅茶を入れ、彼女の横に座った
蝋燭をテーブルに置き、青年は語り尽くした…
死んだ時苦しくはなかったか、生前のさまざまな思い出、守ってやれなかった事…
1時間は一方的に語っただろうか、相変わらず彼女は俯いたまま、黙ってジッとしているんだ
暫くして蝋燭の蝋が無くなりそうになったので、新しい蝋燭に変える事にしたんだけど、火をつけて彼女を照らすと…

…青年は気付いたんだ
ワンピースの右肩に蛇の刺青がある事にね、彼女はタトゥーを彫ってはいなかったんだ
足元を照らすと右足にも、ハートに矢が刺さっている刺青…
それ以前に、女は黒髪だ…??死んだ彼女はブロンドの筈…言い様のない悪寒が彼の全身を走った
彼女ではない、そう感じて電気をつけようとしたその時、女が凄まじいスピードで青年の腕を掴んだ
酷い腐敗臭がするその女がゆっくり顔を上げると、蝋燭の灯りの中、見たくもない顔が浮かび上がってきた…

中央が陥没した顔面に合わせ絵の様に左右の目が中央に寄っていて、唇が損壊して、歯茎が剥き出しになっている…しかも舌が飛び出ている…
青年は魂も凍るような絶叫を上げたけど、女は恐ろしい力で、青年の腕を締め上げた
女が何か呟いた…英語じゃない…チャイナタウンで聞き覚えのある様な…
彼は気付いたんだ
彼女を轢いたのは、在英の中国人の女だった!…その女も即死している…まさかこいつが!?殺される!!
女が顎が外れんばかりに損壊した口を大きく開けた瞬間、凄まじい雷の様な音が室内に響き渡った
青年はとっさに後退ると、崩壊して落下する瓦礫と共に、大量の水が流れてきた
女は「ギイッ」と一言だけ発し、瓦礫と大量の水に埋もれて消えた…
天井が崩壊したんだね
青年が唖然として立ち尽くしていると、上から寝巻き姿の若い神父が、驚愕の表情で穴を見下ろしていたらしい…

その後アパートは、消防に警察、深夜に爆音で叩き起こされた野次馬達で大騒ぎとなった
調べたら教会兼神父の自宅のバスタブと下の床が腐食してて、それが崩壊の原因だったらしいんだ
でもね、確かに腐食はしていたけど、急に床ごとぶっ壊れる様な腐食では無かったらしくて、皆変に思ったんだって

…実は神父は月に1度、聖水で入浴する習慣があったんだ
その日の風呂は聖水だったんだって
勿論青年はあの気味悪い女の事なんか誰にも話さなかったし、瓦礫の下にも誰もいなかった
その代わりにね…血の混じった泥みたいな物が見つかったらしいよ

そして、青年は不思議な事に気がついたんだけど…
部屋の至る所に散りばめていた、彼女との思い出の写真立てが、全て寝室に集まっていたんだって
ベッドを円形に囲む様にね!
青年は、部屋を覗き込む野次馬の中に、微笑む彼女を見た様な気がした…

…どう?
これでこの話はおしまいだよ
君はどう思ったかな?
…怖くなっちゃった?

(ぎゅー)

怖くて眠れなくなった(;ω;)
彼が…