(振り向いた不知火は一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに無表情を取り戻した)

初めまして…では無かったはずですね。一つ答えなさい…貴女サーヴァント?

(不知火を「おねえちゃん」と呼ぶ少女は、答える代わりに口角を吊り上げて笑みを作った。その意味するところは…肯定)

(やはり…これだけの数の艦娘が誰も気付かない中で奇襲を成功させる隠密性の高さ…恐らくは「暗殺者<アサシン>」のサーヴァントね。
まるゆさんは意識を失っているけど息はある…生命力を奪う魔術かしら?司令は…意識を奪われてはいない。ならば…)

あいにく、こちらには貴女と遊んでいる時間はありません。

(言いながら、不知火は無表情のまま右肩の12.7cm連装砲をアサシン…と提督に向けた)

(アサシンが怪訝そうな表情を見せる。当然である。不知火が砲門を向けているのは他ならぬ最重要護衛対象なのだから)

排除します。

ドゥッ!

(何の躊躇いもなく、不知火の主砲は2人に向けて火を吹いた。同時に、船室の隅で伏せていたあきつ丸と明石が立ち上がり、アサシンが硬直した隙を突いて2人を海面に突き落とした)

バシャアァァッ!

皐月!長月!

皐月「分かってるって!」
長月「任せろ!」

(クルーザーの右舷下に控えていた睦月型駆逐艦の2隻が、落下地点から提督を回収、即座に離脱する。そして更に一瞬後…)

ドッ!ドドドドッ!

(落下したアサシン目掛けて、四方八方から砲撃の雨霰が襲いかかった。円形に隙間なく隊列を組んだ軽巡、駆逐艦娘たちの中心に何本もの水柱が立つ。そして…)

一斉雷撃、撃<て>えっ!

シュッ…ゴウッ!!

(自らも海面に下りた不知火の号令で、50隻はいようという艦娘達が一斉に魚雷を放ち、円の中心にこれまでで最も大きな水柱が上がった)

(変わらぬ無表情で水柱を眺めながら、不知火は二つのことを確信していた)

(一つは、提督の無事)

(ガガッ)

『Hey!コチラ金剛デース!テートクの移乗完了しましタ!コレよりFlagshipを引き継ぎマース!』

『ご苦労様です。司令は元気ですか?』

金剛『元気でぶータレてるヨ!「防弾装甲着てるカラって手加減なさ過ぎ!日頃の恨みでもこもってンノカ?」だっテサ!』

『ノーコメントです。クルーザーが追いつき次第、高速編成で先行してください』

金剛『Yes, Ma'am!!』

(ガチャッ)

(これで司令の戦線離脱はひとまず成功と言っていいでしょう。敵は必ず不知火達との戦闘行動を優先します)

(もう一つの確信が、敵の目的)

(先ほどの奇襲、敵は不知火か司令の少なくとも一方を確実に殺すことができました。鎮守府に現れたときも同様。しかしそれをせず…それどころか、一度その場を離れ、不知火達に戦闘準備をする余裕まで与えている。これはつまり…敵の目的が不知火達との戦闘そのものにあるということ)

…光栄ね。

(崩れ落ちる水柱を凝視しながら、この戦いで初めて、不知火が笑みを作った)


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