……
伊勢「…不知火?」…ここからは、一人で行きます。
衣笠「何言って…!」(鼻白む衣笠を掌で制し、不知火は続けた)
宝具…
阿賀野「ほうぐ?」…切り裂きジャックを含め、サーヴァントは必ず、その史実や伝説に因んだ能力や武器を持っています。例えばこの霧がそう。これは19世紀のロンドンを包んでいた大気汚染の産物…スモッグを再現したものです。そして宝具とは、それら伝説を再現した能力の中でも常軌を逸した威力を持つもの…
青葉「ケホッ、この霧がそうだっていうんですか?」それは分かりません。ただ、奴は少なくともあと一つ、必殺の宝具を持っています。今までに見てきた敵の能力…「ナイフ」「高い隠密能力」「情報を残さない」、そして「霧」……ですが、これだけでは切り裂きジャックの伝説には足りません。
陸奥「どういうこと?」思い出してください。切り裂きジャックと対峙して…生きて帰った女は一人もいないんです。
「「「!」」」
間違いなく、それが奴の最後の宝具--狙った獲物を“確実に殺す”能力です。
…だから不知火は一人で行きます。思えば、奴は初めから不知火と戦いたがっていました。もしかしたら、不知火一人をその宝具で殺せば、満足して帰るかもしれません。そうでなくても、宝具を使った後には必ず隙ができます。その時に逃げるなり倒すなりすればよいのです。
衣笠「捨石になるというの?」…勿論、勝つ気でいきます。奴の能力はずば抜けていますが、打たれ強さはライダーほどではありません。運が良ければ、倒すことも不可能ではありません。ですが、もし駄目だった場合は…
「「「……」」」
青葉「…許しません」…は?
青葉「『絶対生きて帰る』って言わない限り、一人で行くなんて許しません!絶対生きて帰るって、約束してください!」…口だけなら、嘘でも言えますが。
青葉「嘘でもいい!私たちを安心させて…ッ!」衣笠「青葉…」……ハァ…わかりました、必ず生きて帰ります。これで…
青葉「エヘ…ヘヘヘ…バッチリ、録音させていただきました…!嘘だったら…鎮守府のみんなにばら撒きますよ…不知火は大馬鹿の大嘘つきだったって!」(青葉はそう言ってポケットからICレコーダーを取り出してみせた)
あ…貴女って人は……やれやれ、分かりました。それでは、そんなことになる前にデータを消しに来なければなりませんね。
青葉「ええ。そのときまで、この情報は、絶対に消させません!」…では、行きます。
(もう迷いはなかった。霧の流れを見、その上流に向けて不知火は闇の中へと歩んでいった)
→