アサシン「くすくすくすくす。じゃあ、いくね?」

(アサシンが両腕を広げる。不知火が警戒していると、不可視の“斬撃”が前方から襲ってきた)

--!?

(それはアサシンを構成する怨霊の攻撃。アサシンは自身の一部である怨霊を分離させ、他者に憑依させることができる。ここには憑依させるべき相手はいないため、怨霊そのものを弾丸のように放って攻撃させていた。威力そのものはアサシン自身の斬撃に比べるべくもなかったが、不可視ゆえに不知火にとっては脅威…のはずだった)

くっ、おおおおおおおっ!!

ドガガガガガガガガッ!!

(なんと、不知火は機銃を掃射し、不可視の怨霊を“撃ち落した”)

アサシン「見えて…いるの?」

目には見えないけど、分かるのよ。理由は知らないわ。

アサシン「ふぅん…だったら、こういうのはどうかな?」

(アサシンは再び霊体化して姿を消す。不知火は応じて目を閉じ、先ほどと同様アサシンの気配を感じて対応しようとするが…)

! (やるわね…)

(“気配”は無数に出現した。アサシンが怨霊を分離させて“分身”として扱っていることはすぐに分かった。不知火が逡巡する暇もなく、無数の気配は四方八方から一斉に襲い掛かった)

---ふんっ!!

ガキッ!…ドゴァッ!!

(不知火は、酸素魚雷1発を自身の真下--氷の地面に打ち込み、機銃弾を打ち込んで爆発させた。氷の破片が弾丸となって、四方の怨霊たちを迎撃する。無論、多くの怨霊、そしてアサシン自身は間隙を縫って不知火に迫るが、速度の落ちた攻撃は不知火に本体の位置を悟らせるのに十分だった)

ビシィィィィッ!

(不知火の握ったナイフが、アサシンの右腕を切り裂いた。傷は浅かったが、自身が切られたという事実はアサシンを少なからず動揺させた)

そこっ! ガシッ!

(再び鍔迫り合いになる。今度は不知火が優位な体勢だ。体格差を利用して押し潰しにかかるが、そこはサーヴァント、駆逐艦娘程度の力では押し切られない。二人は同時に空いた左手のナイフを突きつけようとして、同時にそれをかわして半歩下がる)

「「----フッ」」

(二人は同時に微笑み、同時に突進した)

(一合、二合、三合、四合、二人のナイフが打ち合う。地面に確りと足を乗せる不知火に対して、アサシンは四方を舞うように跳ね回りながら不知火の死角を狙っていく。音速に迫ろうというサーヴァントの速度に対して、本来なら対応不能であるはずの艦娘だったが、長年の経験によって培われた直感と緻密に計算された戦闘技術によって、最小限の動きをすることによってその速度差を埋めていた)

キィン!!

(4本のナイフが同時に宙を舞う。アサシンは新たなナイフを取り出し、不知火は徒手空拳をもってこれを迎え撃つ)

アサシン「あははははははっ!すごい、すごいよおねえちゃん!」

ふっ、光栄ね。でも、不知火はこんなものではないわ…もっと、もっと楽しませ楽しみなさい…!

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(人外の二人が繰り広げる想像を絶する光景を、雪風は離れた場所から眺めていた。…ふと気づく。先ほどまで黒霧に覆われていたのに、どうして自分は二人を視ることができているのか?)

雪風「あ…雪…」

(いつの間にか、周囲には降り積もるほどの雪が降っていた。重油の炎が上昇気流を作り、雲を生んだのだ。魔力による霧を消し去れるわけではなかったが、それでも降り注ぐ雪は黒霧を薄れさせていた)

雪風「綺麗……」

(雪風は思わずつぶやいていた。黒い霧、白い雪、そして血飛沫の赤が生み出す幻想的なグラデーションに、目を奪われずにはいられなかった)

雪風「……」

(不知火とジャック…ヒトの形をしながらヒトではない二人の、ヒトにはできない方法で行われる対話を、雪風はただ見守っていた)


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