(青葉の呼びかけに応える声はなかった。しかし、その場に何か巨大な“存在感”が生まれるのを全員が感じ取った)

青葉「ども、マスターさん?恐縮です。青葉ですぅ。一言お願いします!」

『……』

(“存在感”は何も答えず、青葉はしかしそれを“話を聞く用意がある”と解釈し…衣笠と陸奥に目配せをして砲を下ろさせた)

青葉「ありゃ。つれないですねー。まあいいです、本題いきましょうか。正直言いましてね、青葉たちが束になってかかっても、ジャックちゃんには敵わないと思うんですよ。でもね、全国二百万の鎮守府…少なく見積もっても青葉たちの数万倍はいる艦娘がすべて結束したらどうです?」

『……』

青葉「ジャックちゃんみたいなのがあと何人いるかは知りませんが…おそらく“7人”?多くてその倍?ってとこですかね。我々が勝てるかどうかは別として、いい勝負はできるはずですよ?」

『……』

(“存在感”が“重圧”に変わる。青葉の言葉には“私たちは聖杯戦争について知っている”という意図が込められていたからだ)

青葉「ここで青葉たちを逃がしても殺しても、貴方たちが鎮守府にとっての脅威である、という情報は確実に全鎮守府を席巻します…尾ひれ付きでね」

アサシン「それはむりだよ。だって、わたしたちがいなくなれば、情報はぜんぶきえちゃうんだよ?」

青葉「ふふふ、記者を舐めないでください?情報が無ければ、“作ればいい”んですよ。“メディアの生み出した怪物”である貴女なら、作られた情報が馬鹿に出来ないことを理解できるはずですよ?」

アサシン「……」

青葉「その為の布石は既に打たれています。実はこの間ライダーさんが来て大暴れしてくれたお陰で、近隣の鎮守府には色々とご迷惑をおかけしましてね、まあそれで色々とやり取りがありまして…既にサーヴァントとそれを使役する魔術師マスターの存在は、複数の鎮守府の間では“公然の秘密”なんですよ。ですからまあ、仮にこの北方海域で青葉たちを始末したとして…その犯人は深海棲艦じゃない、となれば…」

『……!!』

(“重圧”が“殺気”に変わる。衣笠も陸奥も雪風も、青葉を不安げな顔で見守ることしかできない)

青葉(ひるんじゃ駄目です…ここでやらなきゃ皆死ぬんです。青葉が、皆を守るんだ…!)

青葉「…こちらの要求事項を伝えます。『アサシンに対し、艦娘・妖精・提督を含む全ての鎮守府関係者に対する“反撃を除くあらゆる危害”を禁ずる』ことを、“令呪を以て”命じてください」


衣笠・陸奥・雪風「「「!」」」

(この要求に驚いたのは衣笠たちである。彼女らも青葉や不知火が得てきた情報から、聖杯戦争に関するある程度の知識を持っている。令呪といえば、各サーヴァントに3回のみ使える絶対的命令権。確かに、青葉の要求が通れば、アサシンは艦娘たちに手出しできず、また反撃の可能性がある以上艦娘たちもアサシンに手出しができない。完全な停戦状態が実現するはずだ。
しかし令呪というのは、本来ならサーヴァントにも不可能な瞬間移動や瞬時の回復なども可能にする万能の魔術だ。そのような貴重なものを自分たちの為に消費させることが可能なのか…或いは自分たちを皆殺しにするほうが、青葉のいうような懸念があってもなお合理的と判断されるのではないか…)

青葉「一応ですね、ささやかながら見返りも2つほどご用意しますよ。取材料も含めて、ですがね。1つは“神秘の秘匿”…でよかったですかね?幸い、貴方たちの存在はまだ上層部にまでは知られていません。ですから、この間の戦いを知っている鎮守府に訂正情報を流します。そうですね…あれは“ケッコンカッコカリを巡っての金剛派と榛名派に分かれての大喧嘩であった”とでもしておきましょうか。
もう1つは…マスターさんくらいの大魔術師ならば、それこそ命を狙われることも多いでしょう?そのときの為の隠れ家を提供します。海洋の地理にあっては、我々より詳しいものはいないと言っても過言じゃありません。どの海図にも載ってない無人島とか、周りを深海棲艦に囲まれていて並みの魔術師じゃ入りたくても入れない島とか、沢山ありますよ?どうです?悪い取引じゃないでしょう?」


(飄々とした口調は崩さないが、青葉の表情にははっきりとした決意と闘志があった。それを感じ取り、ただ心配するだけであった衣笠たちも、青葉を信じるという意志をその目に込める)

青葉(……これは賭けです。彼らの選択肢は2つ、令呪を使うか、青葉たちを皆殺しにするか…でも、青葉は…殺しを禁じたというマスターさんと、彼女を庇った雪風さんの“心”に賭けます。皆と、司令官の命を…!)


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