--司令、お腹が空きました。

(丸1日半眠り続けた不知火が、起床して最初に放った台詞がそれだった。戦いの疲労は空腹という形で現れ、重油・鋼材どころか、駆逐艦なら手をつけないはずのボーキサイトにまでかぶりつく始末である。このときの出来事は、のちに不知火に“戦艦クラスの眼光”に加えて“空母クラスの食欲”の称号を与えることとなる)

(因みにここは人間が利用する病院である。鎮守府の4つしかないドックは、最も損傷が重く高速修復剤でさえ直しきれない長門、天龍、金剛、能代の修復に充てられ、他のものは艤装は工廠で、肉体は病院で治療するという異例の対応をとることとなっていた。不知火のベッドの傍らには、陽炎型8番艦・雪風が看病のため座っていた)

…夢を見ました。

雪風「夢…ですか?」

ええ、不知火は夢の中で、少女に会いました。いえ、少女たち…かしら?暁たちよりも小さいくらいの子たちで、不知火のことを“おねえちゃん”と呼んで…色々な話をしました。

雪風「……どんな話をしたんですか?」

…よくは覚えてないのだけれど…不思議な子たちだったわ。ちゃんと目の前にいて話をしているのに、“わたしたちはまだうまれてない”とか、“お母さんのなかにかえりたい”とか…あまりいじけているから、不知火も言ってやったのよ。“あなたたちはもうこの世に生まれた命だ、誰が認めなくてもこの不知火が認める。分からないなら身体に教えてやる”…ってね。

雪風「…くすっ」

むっ……笑わなくてもいいでしょう?

雪風「えへへ、ごめんなさい。だって、すごく不知火さんらしくて…それで、不知火さんの気持ちは、その子たちに伝わったんですか?」

それは……分からないわ。それを確かめる前に目が覚めてしまったから。…でも、不知火にはその子たちの気持ちが、少しだけ分かった。自分が声を上げているのに、誰にも届かない、理解できる人がいない…それはとても寂しいことだって…

雪風「……」

…雪風?

雪風「…不知火さんも、そうなんですか?雪風たちにはわからないことを、わかってくれる相手を、探してるんですか?」

…そんなことはないわ。貴女も、司令も、陽炎たちも皆も、不知火のことを分かってくれないなんて思ってない。ただ…

雪風「ただ?」

ただ…“分かり合う方法”は1つじゃない…いつもと違う方法で語り合い、分かり合うのは、楽しい…とは思うわね。

雪風「…それが、不知火さんの戦う理由…?」

さあ、どうかしらね。戦うときには一々理由なんて考えないから、分からないわ。さあ、随分寝ていたようだし、そろそろ……と思ったけど、来客のようね。

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「ようねぼすけ!疲れはとれたか?」

雪風「天龍さん!」

長門さんも…

長門「いい、まだ横になっていろ」

雪風「長門さん達こそ、大丈夫なんですか?」

天龍「ああ、とりあえず肉体のほうは動ける程度にはなった。艤装がボロボロなんで、修復に手間取ってやがるんだが…ま、時間の問題だろ」

それで、わざわざ不知火のところへ来たということは…

天龍「ああ、今後のことだ」

雪風「…!」


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