(レ級の突進が不知火に到達するまで、時間にして1秒あるかないかというところだろう。しかしながら、不知火の研ぎ澄まされた感覚には、まるで時間が引き伸ばされ、その1秒が何分も何時間もあるかのように感じられた)
(赤黒い瘴気を身に纏い迫り来る、それはまさに人型に凝縮された嵐。大いなる自然の前では人類の英知など無力。深海棲艦が自然のものかは分からぬが、そう思わせるに十分なほどの“破壊”が目の前にあった)
(しかし不知火は揺るがない。なぜなら目の前にあるのは倒すべき“敵”だから。そしてその敵もまた、自分を“敵”と認識しているから。自然は人間を敵視しない。互いに敵同士と認識するならば、それは対等である証。対等の敵と相見えるのに、躊躇う理由があろうはずがない)
不知火(さて…どうしたものかしら)
(冷静に、慎重に“敵”を観察し、見極める。“敵”は如何なる手段で己を破壊しようというのか)
不知火(――――右拳)
(間違えようがなかった。握りしめた右拳が、不知火の体の中心を真っ直ぐに貫こうとしていた)
(不知火は考える。迫り来る右拳の破壊力は、これまでに見てきたレ級の攻撃のどれよりも強いだろう。既に魚雷も主砲も破壊された。だが、今やあらゆる艦娘や強敵たちの動きを再現できる不知火は、これに如何にして対応するか)
(長門や陸奥なら耐えられるか?――否。如何な世界のビッグ7でも、耐えられる破壊力ではない)
(大和や武蔵では?――否。世界最強の戦艦を以てしても、持ち堪えられる威力にはみえない)
(ならば、日向や伊勢のように回避するか?――否。もはや躱せる速度ではない)
(では、またも雪風のように運を引き寄せるか?――否。馬鹿な、雪風は幸運を信じはしても、運を天に任せたりなどしない)
(“敵”の攻撃は強力無比。不知火はその攻撃を迎え討てる者を知らなかった)
(ただ一人を、除いて)
『“戦艦レ級”なら――』
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