不知火「その前に…ひとつ聞かせてもらいます」

レ級「?」

不知火「何故、手を止めたのですか?」

レ級「!」

(最後の一撃――不知火が選んだのは“戦艦レ級”の動きだった)

(単純なことである。レ級が右拳で自分を砕こうというのなら、同じ速度、同じ角度で右拳を放つ。そうすれば突進の威力は両者に均等に伝わり、両者は等しくその身を砕かれる)

(――そうなる筈だった)

(しかしレ級の拳は、不知火の見立てよりもほんの僅かながら遅れた。その結果不知火の拳が先に相手に到達し、不知火の右腕とレ級の躰のみが砕かれた)

(レ級が意識的に手を止めたのか、あるいは無意識に躊躇ったのかは分からない。問われたレ級が呆けた顔をしているところからすると、自分でも気づいていなかったのかもしれない)

(言葉を発さないレ級の代わりに、不知火が続ける)

不知火「フ…きっと、不知火と同じです」

(言いながら、動く左手で背中の艤装の中をまさぐったかと思うと、掴み取った何かを水面に落とした。黒い水面をぷかぷかと漂い、レ級の体に触れて止まったそれは、ちょうど飲料缶のような大きさと形をしていた)

不知火「あら。補給用の燃料を落としてしまいました。しかし、不知火にはもう拾い上げる体力もありません。困りました。これではせっかくの燃料を深海棲艦に取られてしまいます。これは不知火の落ち度ですね」

(『流石にわざとらしすぎる』と思ったのだろう、不知火はレ級から顔を背ける。これにはレ級も呆れたような声を上げた)

レ級「……キミは馬鹿なのか?弾切れとはいえ、燃料さえあればボクだってもうひと暴れくらい――」

不知火「――できるとでも?」

(肩越しに振り向いた不知火の視線の先には、彼女の同士、11隻の艦娘たちが互いを肩で支え合いながら立っていた。満身創痍ながら、その表情はみな笑顔だ。レ級は、先に自分で言った言葉を繰り返した)

レ級「ああ、そうだね――――ボクの、負けだ」


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