望月「あ゛~~~っ!!もうわっけわかんねー!」
望月が頭を掻き毟り叫ぶ。隣では初雪も頭を抱え込んでいる。原因は新都センタービル屋上に陣取る『白髪のアーチャー』だ。ギリシャ神話の英雄2人と接点があり、超人的な弓の技量を持つことから、2人はトロヤ戦争の英雄ユリシーズを最有力候補としていた。が、ケルト神話の名剣カラドボルグを、それも螺子のような異様な形に変形させて取り出したことによって、推理は全くの振り出しに戻ってしまった。
初雪「アレかな、武器の蒐集家みたいな…」
望月「トロヤ戦争とアルスター伝説の両方の武器を集めた人なんているわけないよ…」
『白髪のアーチャー』のみに拘っている訳にもいかなかった。既に正体不明のサーヴァントはセイバー2、ランサー1、アーチャー1、バーサーカー2、そして恐らくはキャスターと思われる『魔女』が確認されている。うち『甲冑のセイバー』は女であることを指摘すると怒り出すという特徴的な言動があったが、該当する人物に思い至らず、おそらくはフランシス・ドレイクと同様に現代には男として伝えられている人物なのだろうと2人は推定した。
初雪「大淀さん、映像まだ…?」
大淀「もう少し待ってください。赤城さんの彩雲がもうすぐ到着します」
初雪が求めているのは川内らと相対している『青のセイバー』の映像である。川内らは遠隔カメラを搭載した偵察機をすべて失っていたため、この英霊の姿を大淀隊は未だ確認できていなかった。
大淀「…見えました!……これは!?」
望月「ど、どうしたの!?」
大淀「い、今映します!」
大淀が慌てた手つきで小型モニタの画面を切り替える。
望月「同じ…」
初雪「顔…!?」
映し出された『青のセイバー』の容貌は、未遠川で北上らを翻弄している『甲冑のセイバー』と瓜二つであった。
青『――――――死力を尽くしてくるがいい。お前たちの挑戦に応じよう!』
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川内「おっと、ちょっと待ってくれるかな?」
左脚を引き摺りながらセイバーに相対する神通の肩に手を置き、川内が「待った」を掛ける。
青「何ですか?」
川内「見てわかるでしょ?私の妹たちはもう動けない。鳳翔さんも…もう艦載機ないんでしょ?」
鳳翔「く……」
片膝をついたまま矢を番える鳳翔を横目で見ながら川内は言った。妖精の神秘が及んだものとはいえ、ただの矢がこの相手に通じるはずがない、川内はそう冷静に判断していた。
青「……だから何だというのです?」
油断なく中段に『不可視の剣』を構えたまま、セイバーは問う。
川内「簡単なことだよ。私と一騎打ちして。どちらかが倒れるまで、こいつらには手を出させないし、アンタも手を出さないで」
青「…………いいでしょう」
数秒の思考の後、セイバーは答えた。
川内「サンキュ」
青「…一つ良いでしょうか。このような口約束、私はいつでも破ることができます。この殺し合いの場で人情など意味を成さぬこと位、貴女達にはわかるはず。それなのに何故、態々こんなことを申し出たのです?」
川内「…別に。アンタが約束を守ってくれそうな人に見えたってだけ」
青「そう……ですか」
無表情のままのセイバーに、川内は笑って宣言する。
川内「そんじゃ気を取り直して!楽しい夜戦の始まりだ!」
カッ!!
照明弾の炸裂を合図に、2人は弾丸となって飛び出した。
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