犬「さて…お次はどいつだ?もっとも、お前らが束になったってこの俺は倒せんぞ」

周囲を取り囲む白露型の面々に、『青のランサー』が告げる。そこへ…

パァン!!

犬「むっ」

ガキィッ!!

全くの死角、完全な背後から放たれた村雨の弾丸を紅き槍が弾き飛ばした。睨みつけるランサーに、村雨は問いかける。

村雨「やっぱりね…アナタの『矢避けの加護』、見えてる弾しか避けられないんでしょ?」
春雨「わ、私たちだって、ただ見てたわけじゃないんです!」

春雨の言葉通り、夕立と時雨以外の駆逐艦娘たちも、単に牽制のために取り囲んでいたわけではなく、ランサーの弱点を見破るべく一挙手一投足をつぶさに観察していた。その結果掴んだことは、ランサーは“簡単に避けられるにもかかわらず”夕立との戦闘中も時雨や他の艦娘たちを視界から逃さないように絶えず視線を動かしている、ということだった。

犬「ほう…たいしたもんだ。確かに俺の『矢避けの加護』は“放たれるところを見た”弾にしか有効じゃねえ。だがそれがどうした?見えてなくたって、今みたいに簡単に防げるんだぜ?」

五月雨「だったら!当たるまで撃つだけです!」

涼風「あたぼうよ!1000発で当らねえなら10000発、10000発で当らねえなら100000発撃つだけでい!」

主砲を構える6人の気迫を涼しい顔で受け流しながら、楽しげな声でランサーは言った。

犬「へぇ……いいぜ、やれるもんならやってみな!!」

吼えて、先ずはと狙いを定めた村雨に向かって槍兵は突進した。

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鈴谷「うおっと!」

モ「ちっ!ちょこまかと!」

『甲冑のセイバー』=モードレッドの突きを紙一重で回避し、鈴谷は冷たい汗が背中を流れるのを感じていた。

鈴谷(なんなのあれ!?超人的とかそんなレベルじゃない!鍔迫り合いなんてもってのほか、触れただけで消し飛ぶって!)

鈴谷が恐怖していたのはセイバーの剣に宿る“赤雷”だった。魔術の心得などない鈴谷であったが、その剣が抗しようのないエネルギーを秘めていることは直感的に理解できた。相手が逆上して攻撃が大振りになっているおかげで何とか対処が出来ていたが、一度でも回避に失敗すれば致命傷となることは明らかだった。

鈴谷(やばいって…とりあえず何とか足だけは止めなきゃ……そうだ!!)

ドカッ!!

鈴谷は足元の“地面”に向けて己の主砲を斉射した。氷で出来た地面が失われれば、水上で自由に動ける自分たちが有利。そう考えての行動だったが…

鈴谷「何これ堅っ!?」

結果は地面を一度大きく揺らすのみ。氷にはヒビ一つ入っていない。

モ「残念だったな!!」

鈴谷「げっ!?」

逆に足が止まった鈴谷に、セイバーは容赦なく突撃する。斬られた、そう錯覚する鈴谷であったが…

熊野「何してるんですの!!」

仰向けに倒れたまま目を開くと、熊野が自分の上に覆いかぶさっていた。

鈴谷「だって…」
熊野「だってじゃありませんわ!心配させないでくださいまし!」
鈴谷「ごめん…って!あんたこそ怪我してんじゃん!何やってんのよ!」
熊野「誰のせいですの!?この程度なんてことありませんわ!!」

立ち上がった熊野の背中には、斜めに大きな火傷の痕が残っていた。鈴谷を庇ったときに出来た傷であるのは明らかだ。

モ「痴話喧嘩はそこまでだ…」

ゆらり。セイバーの姿が揺らいで見えたのは、その体術の賜物か、あるいは有り余る熱気によって齎された陽炎のせいであったか。

熊野「まったく…こんなこと二度とさせるんじゃありませんわよ!」

氷上のダンスは、まだまだ終わる気配を見せなかった。


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