大和「やめ……やめなさい!!お願い…もうやめてぇっ!!!」

主砲を連打する轟音と、大和の悲痛な悲鳴が柳洞寺の石段にこだまする。涙は流れない。狂獣が求める動作精度を実現するため、大和の涙腺は涙を流すことを許されていなかった。『黒のバーサーカー』の宝具と化した大和の主砲は、既に阿賀野、足柄、初春を大破させている。

矢矧「この!大和を返しなさい!!」

ドッ!!

大和の艤装に立つ甲冑を目掛けて放たれた15cm弾は、振り返った大和自身の左手に掴まれ、握りつぶされた。

矢矧「嘘――!?」

このような常軌を逸した戦闘能力は、如何な最強戦艦大和といえど持ち得ない。バーサーカーの能力が単に艤装や肉体を操作するのみならず、爆発的な強化をも齎していることは火を見るよりも明らかであった。

大和「はぁぐっ!?」
矢矧「大和!?」

大和の唯一自由になる口が、苦悶の声を漏らす。バーサーカーの術による肉体操作は大和の能力を強化するものの、それによって実現する限界を超えた機動が、大和の肉体に負担を与えているのだ。

長門(もはや一刻の猶予もない…どうすれば…)

加古「でええええいっ!!」

ボガァ!!

湖「!?」

――と、大和と、背に乗ったバーサーカーが体勢を崩す。階段の下方から、加古が大和の足元の石段を撃ち崩したためだ。

長門「ッ!!」

長門の判断は素早かった。段上…大和とバーサーカーから見て背後になる位置から2人に掴みかかり、そのまま自分ごと塊になって階段を転がり落ちていく。

長門「大和…許せ!」
大和「!?」

転がった3人が宙に浮く。その機を逃がさず、長門は大和に・・・バックドロップを仕掛ける。

ドゴォッ!!

戦艦2人の重量が石段に大穴を穿っても、スキル『無窮の武練』に裏打ちされたバーサーカーの体術は、未だ大和の肉体を解放してはいなかった。バーサーカーは、大和の左腰の砲塔を掴んだまま、逆立ちの姿勢で投げ技の衝撃を回避している。だがその姿勢は、もう一人のビッグセブンに狙い撃ちを許すには十分な隙であった。

長門「陸奥ーーー!!!」

ゴッッ!!

轟音とともに黒き甲冑が空中へと投げ出される。持ち前の装甲で長門の投げを耐えた大和は、ようやく自由になった体に、貪欲に酸素を取り込んだ。

大和「はぁ…はぁ…」
矢矧「大和!」

荒い息を吐きながら立ち上がる大和に、矢矧が駆け寄って縋り付く。見ると、大和に纏わり付いていた黒い霧や血管のような魔力が徐々に消え失せていくのが分った。

長門「矢矧、大和と他の皆を連れて先に行け。こいつの相手は我らにしか務まらん」

背中越しに長門が呼びかける。陸奥もその隣に立ち並んだ。

陸奥「そうね。大和、しばらくは弾薬を装填しちゃ駄目よ。すっごく熱くなってるの、分るでしょ?」
大和「……え、ええ……」

陸奥の指摘どおり、大和の艤装は先ほどまでの限界を超えた動作により、完全にオーバーヒート状態であった。弾薬の装填どころか、可動部の動作すら危ぶまれる状態だ。

矢矧「分ったわ…みんな、こっちへ!」

矢矧の号令で、長門と陸奥を除いた艦娘たちが石段を駆け上がっていく。ゆっくりと起き上がる黒い甲冑を見据えながら、陸奥は一人、この難敵を倒すためのある決意を固めていた。

長門「覚悟はいいな、陸奥!」
陸奥「ええ!」

長門はまだ気づいていない。陸奥の『覚悟』が、長門の想像する以上のものであることを。


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