扶桑「それは――――――」

英雄カルナの問いに答えるべく口を開いた扶桑は、そこで一度口を閉じた。そして相手の背中側に立つ妹の不安げな顔を見つめた後、再度口を開いた。

扶桑「少し、昔話をしてもいいかしら?」

カ「…構わん」

扶桑「私は……私と山城は、生まれながらにして“欠陥品”でした。初の純国産超弩級戦艦として設計され、当時としては最高の威力を持った主砲を装備して生まれた私たちでしたが……その主砲はひとたび放てば船体のあちこちを歪ませ、甲板を覆い尽くす爆煙を避けるため、違法建築と揶揄されるような艦橋を必要とする有様でした。私たちを持て余した作り手たちは、戦火が拡大してからも私たちを中々前線に出そうとはせず……久方振りに前線に出たときには、既に大勢は決していました…」

カ「……」

扶桑「そんな『不幸』な身の上を持つ私たちですが……この時代に再び生を受け…あの方に出会いました」

カ「『あの方』?」

扶桑「ことある毎に自らの身上を嘆く私たちに、あの方はこう言ってくれました……

『昨日までが不幸であったのなら、今日から幸せになればいい。己の力に不安があるならば言え。出来る限りの改修と改造をしてやろう。前線に立てぬことが辛いならば言え。存分にその力生かしてやろう。お前たちはもう物言わぬ船ではない。人として自分の幸福を求めることが出来るのだ』

と……」

カ「……」

扶桑「そしてその言葉通り、提督は私たちをとても大切に扱ってくれました。提督は私たちの力を大いに頼り、私たちは持てる力の全てでそれに応えました……今も同じです。提督が私を必要としてくれるから。いいえ。提督だけじゃない。山城も、最上も、三隈も…時雨も、満潮も、他のみんなも……私を必要としてくれている」

カ「お前は……俺と……」

扶桑「ええ、他でもない、貴方なら分るはず。必要としてくれる人のために戦うのは、『幸せ』なのよ。勿論、力及ばずして負けるのは『不幸』ですが……それは、『不幸』だけど、『不幸じゃない』。それを教えてくれた人のために、私は戦っているの」

山城「姉様……」

そこまで話して、扶桑は一度大きく息をつく。震える膝を拳で叱りつけながら立ち上がり、眼前の敵を睨みつける。持てる力の全てをもって、最後の一撃を放つために。

カ「その体で、何が出来る」

扶桑「確かに、私たちは貴方に敵わなかった……でも、だからといって諦める訳にはいかないのよ……私の『幸せ』の為に!」

言って、最後に残った左腕の甲板を水平に構える。

扶桑「行きなさい、瑞雲たち!」

ブゥ……ン!!

カ「ふん……」

敵の顔面に向けて放たれた10機の瑞雲は、ランサーが僅かに身をかわしただけで空を切り、遥か南の空へ飛び去っていく。

扶桑「これ……で……提…督……」

バシャッ!

力を使い果たした扶桑の体が仰向けに倒れる。

最上「扶…桑……」

三隈「私たちも……最後まで…」

最上と三隈の甲板から、合計12機の瑞雲がランサーの頭を掠めて飛んでいく。

山城「姉…様……私も……姉様と……おな……じ……」

さらに10機の瑞雲が、冬木の夜空に消えていく。倒れた4人の艦娘を見つめ、『施しの英雄』が口を開く。

カ「俺は……」


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