島風は森を一直線に東へと駆けていた。3体の『連装砲ちゃん』たちも巧みに飛び跳ねつつ木々を避けてこれに続く。――と。
ヒュンッ!
島風(左っ!)
ザッ!!
僅かな風切り音を頼りに矢の飛来を察知した島風は、止まらずに低く伏せることでこれを回避……しきれず、太ももの裏に掠り傷を負う。
ヒュンッ!
島風(右っ!?)
ザッ!!
今度は右からの矢。これは何とか躱し、空を切らせる。足を止めず走り続けながら、島風はいつもの口癖と逆の感想を漏らす。
島風(はっやーい……)
島風の誇る快速は当然水上でこそ発揮されるが、陸上であっても一流アスリートに引けを取らない程度の走力を島風は持っている。その島風を捉えつつ、数秒間隔で左右から矢を発射できるとするならば、射手の速力は――
島風(――ざっと音速くらい、ね)
矢の速度と軌道から、敵の距離は大まかに分かる。どうやら電探にかからないギリギリの距離を維持しているようである。そこから敵の速度を推定した島風は、『矢の飛んできた方向に撃ち返す』戦術が無駄であると理解する。
島風「連装砲ちゃん!」
小声で指示を出し、連装砲ちゃん達を自分の周囲に輪形陣のように配置する。そして木々の間を縫って走りながら――
島風「いまっ!!」
ドッ!!
連装砲ちゃんたちは三者三様の方向に砲弾を発射した。
~~~~~~~~~~
アタ「…あてずっぽうか?愚かな」
島風の後ろ姿が見える位置で弓を構えながら、アタランテはひとりごちた。島風の砲撃は6発とも明後日の方向を向いている。島風の回避の癖はここまでの数射で既に掴めた。次の射撃では3本の矢を使う。これで島風は回避できないだろう。
ギリ…
アタ「まずは通信機だ」
ピッ!
鋭い音とともに3本の矢が必中の軌道を描いて飛んでいく…はずだった。
アタ「なにっ!?」
ドッ!!
矢は島風に着弾しなかった。2発の砲弾が矢の軌道を正確に捉え、2人の中間の位置で爆発したからだ。このとき驚きのあまり一瞬足を止めてしまったことが、『最速の狩人』らしからぬ瑕疵であった。
島風「――見つけた!!」
爆煙の中から飛び出してきたのは、弓を引き絞るように拳を構えた『最速の艦娘』だった。
→