ラ「オラ行くぜ!」
ライダー=フランシス・ドレイクの指揮で、宙に浮くガレオン船たちが眼下の艦娘たちに砲を向ける。
ラ「撃てーっ!」
ドウッ!!ドウッ!!ドウッ!!
轟音と共に無数の砲弾が艦娘たちに…いや、艦娘たちとライダー自身に迫った。
ラ「!?」
小舟を急旋回させて弾をひらりと躱すと、その弾を撃ち出したガレオン船の上に、いつの間にか登っていた者の姿を確認する。
ラ「テメエ、何しやがった?」
明石「何って…『改造』ですけど?」
右手に握ったドリルのような工具と左手の指の間に挟んだネジを示すと、明石はクレーンを別のガレオン船に取り付け、ターザンのように振り子運動をしてその船に飛び乗った。
ヒュン…ガガゴガ!…カーンカーンカーン!
ラ「おいコラ待ちやがれ!」
ライダーは明石の乗った船に指示を出し、自分に近づけようとした…が、何故かその船は指示に従わず、別の船に激突して爆発してしまう。その間に明石は更に他の船に乗り込み、『改造』を続けた。
明石「それっ、カーンカーンカーンっと!」
明石が施した『改造』とは、ライダーの船が
船であることを利用した奇策だった。
ライダーの魔術で具現化した『火船』は、ライダーの意志で自由に操ることができる。が、ライダーは飽くまで『乗り手』である。船の進行方向を決めるには舵輪を回して舵を切り、砲の狙いをつけるには台座を回して向きを変える、といった『操作』を、ライダーは全ての船に(半ば無意識に)行っていた。
そこに目をつけたのが明石の『改造』である。舵輪を回せば逆向きに舵が回るように。錨を巻き上げようとすれば帆が巻き上がるように。『入力』と『出力』の間の過程を狂わせる、コンピューターに例えるならバグのようなものを、火船の1隻1隻に仕込んでいたのだ。
ラ「小賢しい真似をっ!」
ドゴァッ!!
ならばと、明石の乗り込んだ船を『起爆』する。これは火薬に魔力で点火するのみ。『改造』でもその過程を狂わせることはできない。が、明石は想像以上の身軽さで爆発を回避し、別の船に乗り移っていた。
明石「ふふん、明石流立体戦闘航海術、侮らないでください?」
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
立て続けに明石の乗った船やクレーンを取り付けた船を起爆するが、時に水上も経由しながら巧みに移動する明石は簡単には捕まらない。クレーンも異様に頑丈であり、火船の爆発を受けても機能を喪う様子はない。ライダーは与り知らぬことであるが、これらは『封印指定の人形師』による魔術強化の賜物であった。
ラ「なら、アタシ自ら…」
相手をしてやる、と、銃と剣を構えて小舟を近づけようとする。が…
ドッ!ドッ!
ラ「チイッ!」
伊勢「ちょっと無視しないでくれる?アンタの相手はこっちだよ!」
戦艦や軽巡らの砲撃に牽制され、思うように動けない。上手く足止め出来ている、そう判断した大淀は艦隊の最後方に陣取り、通信機を起動した。
大淀「提督、此方大淀。現在フランシス・ドレイクと交戦中。ご指示を」
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「此方司令部。了解した。例のモノは届いているな?」提督を乗せた小型クルーザーは、鎮守府正面海域を出て外洋を進んでいた。舵輪を握るのは夜戦能力を持たない龍鳳。また護衛兼見張り員として夕張が同乗している。更にその周囲を第30駆逐隊の4隻と潜水艦6隻が警護しながらの…つまり鎮守府に残った艦娘のうち、間宮を除く全員での航海である。
大淀『はい。既に写しはお送りしましたが』
「今確認した…よし、よくやった。後は兎に角生き延びることに専念しろ」大淀『はい。提督もお気をつけて』
通信を終えた提督が深い息を吐く。冬木へは最も遅い潜水艦の速度で1時間あまりかかる。その間、何処まで見つからずに『援軍』を近づけることができるか…それに作戦の成否が掛かっているとさえ言えた。
龍鳳「でも、提督が出てくる必要は…」
言い掛けた龍鳳がふと空を見上げると…
龍鳳「…鳩?」
外洋に鳩が飛んでいるなんて珍しい…と呑気に考える龍鳳。
龍鳳(珍しいと言えば、日本では見たことのない毛並みの鳩ね。外来種かしら…?)
…と、此処まで考えて一つの可能性に思い至る。提督も一瞬早く同じことに気が付いたようで、拡声器を引ったくり叫んでいた。
「全周警戒!!」伊168「き、急速潜行!!」
まるゆ「もぐもぐ〜」
駆逐艦達が四方を向いて高角砲を構えると同時に、潜水艦たちが水中に身を隠す。
龍鳳(こんなに早く見つかるなんて…どうか、無事に辿り着けますように…!)
誰にともなく、龍鳳は祈りを捧げた。
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