龍鳳「来ました、正面です!」

鎮守府と冬木市の、ちょうど中間に当たる海上。電探に探知された2つの敵影は、龍鳳が顔を上げたときには既に目視可能な距離まで接近していた。速度を緩めたクルーザーの正面に降り立った英霊たちに対して、提督は恐れることなく歩み出た。

「ライダー、メドゥーサとランサー、カルナだな」
カ「如何にも」
メ「そういう貴方がたは…冬木にいる艦娘たちへの援軍、といったところでしょうか?」
「相違ない」
メ「なれば、ここを通すわけにはいきません」
カ「大人しく帰るならば危害は加えん。さもなくば…」
「こんな所でやり合いたくはなかったが…已むを得んか」

武器を構える英霊たちに対して、艦娘たちも戦闘態勢を取る。

夕張「提督ッ!」

夕張が提督の前に立ちふさがり、主砲の狙いを定める。

「我が艦隊の力、見せてやろう。全艦、突撃!!」

2人の英霊の間に、潜水艦娘たちの放った魚雷が作る水柱が立った。

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ラ「おっと、逃がさねえぞ?」

右手のピストルを胸元に突き付けられ、『黄金の鹿号』の舳先に追い詰められた明石は胸中で己の誤算を呪った。

明石(うわぁ、マズったなあ。私がやられるのはいいとして、あんなに簡単に統率を取り戻すなんて……普通あそこまで『改造』した船を動かすなんて不可能なんだけどなあ。流石は『不可能を可能にする女』ってところかしら?)

ラ「おっと!」

キィン!キィン!

ラ「おかしな真似すんじゃねえぞ…」
明石「嘘――!」

背中のクレーンを気取られないように伸ばし、脱出を試みる明石だったが、察知したライダーは、左手のカトラスで容易にクレーンを切り刻んでしまう。魔術強化が施された艤装といえども、サーヴァントの度重なる攻撃には耐えられなかったのだ。

ラ「随分大人しくなったじゃないか…それとも、お祈りの時間だってか?」
明石「ぐぐぐ…」

撃鉄が引き上げられ、照準が胸元から眉間へ移される。…と、その時。

『明石さん!大淀です、聞こえますか!』

明石「大淀?」

通信機から聞こえてきたのは大淀の声だった。

大淀『撤退してください!私たちは、この海域を放棄します・・・・・!』
明石「撤退って…簡単に言うけど、いま私絶賛大ピンチなんですけど!?」
大淀『三つ数えたらそこから飛び降りてください!』
明石「飛び降り…って!!ここビルの10階くらいあるわよ!?落ちたら沈んじゃうって!!」
大淀『いいから!3!2!…』
明石「ええい、ままよ!!」
大淀『1!』
明石「うわあああああっ!」

ダッ!

ラ「待てっ!」

バァン!

ピストルが火を噴き、一瞬前まで明石の立っていた場所を弾丸が通過する。

明石「ひいいいいっ!?」

明石の眼前にみるみる水面が近づいてくる。――と。

球磨「クマーーッ!」
多摩「にゃあああっ!」

ドッ…バァァッ!

吹き上げる奔流が明石を飲み込む。

明石「あばばばばば…」

奔流の正体は、軽巡娘たちの魚雷が引き起こした水柱だ。水柱の勢いは落下の衝撃を相殺し、明石は溺れかけながらもなんとか着水に成功する。

明石「うへぇぇ…死ぬかと思った…」
大淀「良かった…さあ、撤退です!」
日向「三十六計!」
伊勢「逃げるに如かず、ってね!」

一目散に逃げだす艦娘たちだったが、当然ライダーが易々と見逃す筈がない。

ラ「チッ…追え!」

火船の群れを突撃させ、体当たりを仕掛ける。それを見た明石は、何故か逃走を中断し、立ち止まった。

大淀「明石さん?」
明石「先行ってて。最後の仕上げをしなくちゃ…ね!」

船団の先頭の火船に、明石は何処からか取り出した、バケツに入った薄緑色の液体――高速修復剤を振りかける。

バシャアッ!

「!?」

ガラララララララッ!

明石「先頭の子は、確か錨の上げ下げを逆に『改造』したんでしたっけ?それが一瞬で『修復』すれば当然――」

揚げていたはずの錨は下がるのが道理。急制動した火船に、後続の船たちは玉突き状に追突し…

ドドドドドド…

爆散する船団を振り返らず、明石と艦娘たちは冬木の海岸を背にして沖合へと逃走していく。それを見送るライダーは追走を試みることなく、『黄金の鹿号』の甲板でつぶやいた。

ラ「まあいい…本当はアタシ自ら引導を渡してやりたかったが仕方ない。この先お前らを待っているものを考えりゃ、な。お前らは…アタシにやられてた方がマシ・・だったんだ」


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