紅茶「全てを救うとはこういうことだ。これを知ってもなお、お前は全てを救うとでも言うのか」
叢雲「あ―――」
紅茶「それでもなお私に挑むというのならば来るがいい。尤も、その折れかけた足と心で戦えるのならば、な」

固有結界『無限の剣製』。その内部で結界の主と向き合う叢雲は、脚に深刻な打撃を受け、立ち往生していた。その眼前で白き短刀が振り上げられる。これまでか、と覚悟を決める叢雲だったが――

紅茶「むっ」

ガキン!!

アーチャーの左手から何者かが突進し、白黒の両刀はこれを防ぐために使われた。

雷「なっさけないわねえ。そんなんじゃ駄目よ!」

突進してきたのは『錨』を斧のように構えた雷だった。見れば、他の特Ⅲ型駆逐艦の3人も、アーチャーを取り囲むように立っている。

暁「貴方って、捕まえた泥棒を殺しちゃうわけ?そんなんじゃ、レディの風上にも置けないわ!」
Вер「暁、彼は男性だよ」
暁「分かってるわよ!って、私が言いたいのはそういうことじゃなくて――」
電「沈んだ敵も、できれば助けたいのです!」
暁「そう、それよ!」
雷「危険なことをする奴がいたら、それを止める。当然よね」
暁「悪い奴を懲らしめてやることだって、時には必要よ」
Вер「でも、それはソイツを『救わない』ことを意味しない」
電「電たちは船なのです。沈めて、助ける、そういうことだってできるのです!」
叢雲「ああ――」

そこまで聞いて、叢雲も脚の痛みがようやく治まったのか、輪に加わって構え直す。

叢雲「そりゃそうだわ。助けるって、そんな難しいことじゃあないのよ」
紅茶「ほう…?」
叢雲「さっきの喩えなら、別にとっつかまえたあとにパンをくれてやったっていいのよ。その分は体で返してもらうけどね」

なんでこんな簡単なことも思いつかなかったのか、と叢雲は嘆息する。

叢雲「まあ、認めるわ。どんなに努力したって『救えない』場合だってある。さっきの話だって、そうでしょう?そもそも最初から全員分のパンがないんだったら、誰かは死ぬ。それが分からないほど私は馬鹿じゃないわ。きっと、アンタはそういう『救えない場合』を、何度も何度も見てきたんでしょうね。この剣の数と同じだけ」

槍を振り上げ、男の顔に突き付ける。

叢雲「だからこそ言うわ――この槍は、『救える場合』の数に加わるのよ」
紅茶「何――」
叢雲「それを今から――証明してやるッ!」

正面から飛び掛かる叢雲。それと呼応して、暁・雷・電・Верныйも四方から突進する。

紅茶「やはり言っても聞かぬ愚か者か……来い!現実というものを、その身に教えてやろう!」


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