狩人は森の中で風となり、加賀の操る烈風改からその姿をくらませた。しかし――
天津風「こっちで間違いないのね?」
瑞鶴『うん、まっすぐ真南…待って、そっちに方向転換した!狙われてるよ!』
天津風「望むところね……雪風、準備はいい?」
雪風「はい!」
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瑞鶴にアタランテの位置を知らせているのは、森のはるか上空に位置取った彩雲だった。
加賀「…手伝う必要はないと、言ったはずだけど」
瑞鶴「『できることをしなさい』とも、言われましたけど?」
加賀「だからって――」
発しかけた言葉を飲み込み、加賀は別の言葉を紡ぐ。
加賀「――いえ、私の烈風改を振り切るほどの速度なら、確かに上空からでもその痕跡は追える。良い判断ね」
瑞鶴「加賀さん…!」
加賀「ただし」
舞い上がりそうな瑞鶴に、指を突きつける。
加賀「それなら艦攻か艦爆を使うべきだったわ。彩雲では天津風さんたちの援護はできないでしょう」
瑞鶴「あう…」
やりとりを眺めながら、赤城はくすくすと微笑む。が、その微笑みは一瞬で刃の鋭さを取り戻す。
赤城「誰かこっちに向かっています――吹雪さん」
吹雪「はい、第11駆逐隊、迎撃用意!」
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森の中は、疾駆する天津風の撒き散らす白煙で霧がかかったようになっていた。その発生源を、アタランテはいち早く視認する。
アタ「先にあちらを潰すか……喰らえ!」
ピッ!
風切音とともに、矢は未だこちらを発見していない天津風を目掛けて一直線に飛んで行く…が。
連装砲ちゃん&連装砲くん「きゅーっ!」
ボッ!!
アタ「なにっ」
それは数分前、島風との邂逅の再現。天津風を襲った矢は、その手前で砲撃と激突し、相殺される。そして――
天津風「見つけたわ!」
白煙を切り裂き、天津風が拳を構えて飛びかかる。その姿勢、勢いに至るまで島風と全く同じ。故にアタランテは、先程と同じく徒手で迎撃すべく、左手を弓から放して身構える。先程と同じく、放たれた拳に交差するように左腕を絡ませ――
アタ「…?」
違和感。島風と同じ速度ならば、この左腕は既に天津風の肘に絡みついているはず――ではなぜ、天津風はまだ構えた拳を突き放っていないのか?
天津風「かかった!」
バキィ!!
アタ「うっ!?」
…遅かった。自分がではなく、相手が。殴られながらアタランテは理解する。
島風と似た構え、似た走り。その巻き起こすつむじ風の勢いに至るまで瓜二つであった。加えて、真正面からの接近は、周囲の比較対象が限られるため、その速さを見定めにくい。故に、その速さを見誤った。天津風は、島風よりもはるかに
遅いのにも拘わらず。
天津風「はっ!」
拳をアタランテの顔にめり込ませたまま、天津風は空中で身を翻し、空を切ったアタランテの左腕を取りにいく。いわゆる腕挫十字固の姿勢となり、2人は地面に倒れ込んだ。
天津風「どうよ!?」
アタ「む……」
関節を取りに行ったのは、天津風の失策だった。何故なら、相手はサーヴァント。霊体化すれば簡単に脱出できてしまう。が、アタランテはすぐにそうすることをせず、もう一つの謎を天津風に問いかけた。
アタ「ひとつ聞かせろ。先ほどの奴も汝も、何故私の位置が分かった。それも、あれほど正確に」
天津風「あら、狩人ならそのくらい分かると思ったけど。狩られる立場になってみれば…ね?」
アタ「狩られる立場――ああ、そうか」
肘を極められながら、アタランテは合点する。何のことはない。この森の中だ、『自分を射ることのできる角度』は限られている。それだけのことだったのだ。
アタ「成程…では、謎も解けたところで反撃するとしよう」
天津風「!?」
アタランテの姿が掻き消える。霊体化した、そう気づいた天津風は、しかし焦らずにもう1人の艦娘の名を呼ぶ。
天津風「雪風!」
雪風「はい!」
ドドドドッ!!
アタ「!?」
今度こそ有り得なかった。反撃のために実体化したその瞬間を、まるで狙いすましたかのように弾丸が降り注いできたからだ。
天津風(今度は種明かしをする気はないわ……だってこれは、ただの
幸運なんだから!)
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