「撒けたか?」

操舵を夕張に交代し鎮守府の方角に向かって疾走するクルーザーの甲板で、提督は警戒に当たる龍鳳に呼びかけた。

龍鳳「はい。“鳩”の姿も既に確認できません」
「ふう…流石に肝を冷やしたな」
龍鳳「うふふ、英霊2人に立ち向かう提督、カッコ良かったですよ?」
「馬鹿言え。声が震えるのを誤魔化すだけで精一杯だったんだぞ」

「それが、カッコ良いんですよ」と微笑む龍鳳。そこで、提督は表情を切り替える。

「潜水艦は全員無事だな」
龍鳳「はい。ゴーヤさん以外は反応がありません――つまり、大丈夫です」
伊58「この暗さだと、潜水艦どうしでも視認は不可能でち。無線封鎖して深く潜れば絶対見つからないよ」
「ふむ……ならば――」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ガシャアッ!!

20.3cm弾の直撃を受けた竜牙兵の1体がバラバラになって床に落ちる。日頃からマスターの“実験”で相手をしてきただけあって、竜牙兵に対しては青葉は有利に立ち回ることができていた。

青葉(1体1体の強さは深海棲艦と大差ないですからね。縦に狭く伸びた通路で、飛び道具を使う個体が少ないのもラッキーでした……階段に繋がる扉までたどり着ければ、上の不知火さんたちと合流できるはず!)

「VWOOOOーーッ!!」
青葉「おっと!」

群れの後方から前衛を飛び越えて急襲してきた竜牙兵を、12.7cm連装高角砲で撃墜する。降り注ぐ骨片から目を庇った左腕を退けると、竜牙兵たちの頭上に、それまでなかった人影が浮遊しているのが目に入った。

青葉「メディア、さん……!」
魔「あらあら、私の兵たちをこんなに……いつの間にここまでの力をつけたのかしら?」
青葉「『生きて帰る』のは昔から得意なんですよ。メディアさんも退いてくれないと、怪我しますよ!」
魔「あら怖い。そういえば、貴女は“生前”からそうだったわね。自分が生還するためなら、全てを踏みつけ乗り越えてきた――敵も、味方もね」
青葉「何が、言いたいんです?」

眉をひそめる青葉に対し、魔女はくすくす、と含み笑いを漏らす。

魔「貴女一人を助けるために、既に何人の仲間が犠牲になっているのか……想像出来ない訳じゃないでしょう?」
青葉「く……」

想定はしていた。ここに辿り着けたのは、音からして数人のようだ。つまり最悪残りの全員が……青葉の脳裏に不吉な光景が浮かび上がる。

魔「うふふふ。私はね、アオバ。貴女に親近感を抱いているのよ。自分が生きるために多少の犠牲は仕方のないこと。私自身もそうして生きてきた。だからこそ貴女が心配なの。犠牲を払って生き延びて――『裏切り者』と指を差されても、貴女はそうして立っていられるかしら?」

暗い笑みを浮かべるメディア。問われた青葉はしかし、あっけらかんとした表情を返してみせた。

青葉「当たり前じゃないですか。何言っちゃってるんですか?」
魔「何って――」
青葉「この命が誰かの犠牲の上にあるなんてことくらい、はじめから分かってますよ。寧ろその犠牲が青葉のためのものなら……尚更帰らなきゃいけないじゃないですか。沈んで行ったみんなの分まで生きなきゃ、そっちのほうが申し訳ないですよ!」
魔「そう……それが貴女の答え、という訳ね」

胸を張る青葉を一瞬見つめた後、振り返り、霊体化して消えようとするメディア。

青葉「戦わないんですか?」
魔「勘違いしないで。私には他にやることがあるだけよ。貴女一人の相手なんて、この子達で充分」
青葉「……」
魔「精々足掻きなさい。生きていたら――また会いましょう」

青葉が言葉を返す前に、魔女の姿は完全に掻き消えた。


_vs_magus_19-1